159 サライでの宴

 皆が酒を飲み交わし、そこいらでよもや話の花が開いた。


 「いやぁ、交易再開できて、本当によかった!」

 「ジンも、消息聞かなくなったし。もう、大丈夫なんじゃないか?」

 「我々の村、アクス王国の護衛が村に駐在してるけど、そろそろ……」


 サライの中庭全体、大衆酒場のような雰囲気に包まれている。


 ……この、ヤスリブの大地の人々は皆、宴が好きのようだ。


 ……いや、どこの世界もか。


 中庭の景色を眺めつつ、マナトはそんなことを思いながら、酒を飲んだ。


 赤紫色の、フルーティーなブドウ酒。少し苦味があるのが逆に飲みやすく、とても美味しい。


 ――ピュォ~オオオォ~。


 「おっ?」


 笛の音色が聞こえた。


 見ると、中庭の中央のほうで、他の村のキャラバンの女性が、フルートのような木の笛を吹いていた。


 ……どこにでも、音楽ってやっぱりあるんだなぁ。


 すると、他の村のキャラバン達もそれぞれ楽器を持ち出してきた。


 くびれた形をしている、砂時計のような形をした太鼓。小さいサイズの、木製のギター。


 「あっ、バイオリンだ」


 前の世界でも馴染みのあるバイオリンを持っている者もいる。


 そして、最初に奏で出した笛の音色に合わせて、調和しながら演奏し出した。


 どことなく、エスニック風な雰囲気を感じさせる、聞き心地のよいメロディーが中庭に響く。


 ……即興でやってる。センスあるなぁ~。というか、この状況……贅沢だなぁ。


 演奏で盛り上がる中、マナトはラクトと、先に荷物運びを手伝った、キャラバンの村のメンバーと飲んでいた。


 「へえ!デザートランスコーピオンに遭遇したのか」

 「ああ。仲間呼ばれて、ちょっとヤバかったな。でも、マナトがうまく立ち回ってくれたな」


 ラクトが言った。


 「水の能力で、巻き起こった砂嵐を消してくれた。その上、デザートランスコーピオンは濡れた地面のせいで砂中に潜れなくなって、詰みって感じだったな」

 「マジか。すげえなマナト」

 「いやいや、そんな」


 2人に褒められ、マナトは照れた。


 「ほう、マナトはなかなか戦闘の才能があるようだな」

 「おわっ!?」


 3人ともビックリして後ろを向いた。


 見ると、ターバンを外したジェラードが、小さな酒樽を持って立っていた。


 「んっ?ミトがいないようだな」

 「そうですね。ちょっと、見ないですね」

 「……あっ。ミト、そこの奥の回廊の前にいますよ」

 「ホントだ。お~い、ミ……とぁ!?」


 ラクトは手を振りかけたが、ミトは先の、荷物を置いたキャラバンの村の女性メンバーと一緒にいた。


 「あっ、アイツ……荷物運び途中で放棄したと思ったら、化粧直ししてやがったのか」

 「あはは……」


 一緒に飲んでいたメンバーは唖然として、マナトも思わず苦笑してしまった。

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