158 サライにて/賑やかな夜に

 「よかったですよ。サライはキャラバンが利用してくれないと、商売にならないって、我々も嘆いていたところだったので」

 「あはは、そうですよね」


 サライの管理人の使いの者と、マナトは少し話をした。


 「……そうですか、今回は、湖の村という村に向かわれるのですね」

 「はい。この村、聞いたことないですか?」

 「いえ、私は初めて聞きました」


 話している間に、さらに他のキャラバン逹が、サライに続々と入ってきていた。


 にわかにサライ内が賑やかになる。


 「久しぶりの満員御礼だ。それでは、仕事に戻りますので!」

 「はい、お疲れさまです」


 使いの者は、回廊の中へと消えていった。


 「あっ、うちの村のメンバーだ」


 サライに入ってきたキャラバンの中には、別の村へと出向いていた、キャラバンの村の見知った面子も見受けられた。


 「……んっ?おう!」


 ラクダから荷をおろしていたメンバーの一人が、マナトの視線に気づいた。


 「どうも!」

 「お前らも、交易帰りか?」

 「これから行くんです」

 「そうか。メンバーは?」

 「ジェラードさんが隊長で、リートさんに、ミトとラクトの5人です」

 「えっ!」


 もう一人、荷物を運んでいた女子メンバーは、マナトの言葉を聞くと、荷物を置いた。


 「あら……ミトくんいるの?」

 「あっ、はい。今、薬草取りで外にいますけど」


 すると、その女子メンバーはそそくさと回廊の中に入っていった。


 「えっ!おいちょっと!荷物!」

 「あはは……手伝いますよ」


 マナトは女子メンバーが置いた荷物を持ち上げた。荷物運びを少し手伝う。


 「アイツ、どこ行ったんだ?」

 「さぁ……いなくなりましたね」


 荷物を宿泊スペースに運び終え、2人は再び中庭に戻った。


 「ありがとな」

 「全然大丈夫です」

 「てか、ジェラードさんとリートさんの2人とも、このサライに来てるのか」

 「はい」

 「なんの依頼?」

 「湖の村ってとこの、ラクダ運搬なんですけど」

 「ふ~ん……どこそれ?まあ、いいや。ちょっと、ジェラードさんとリートさんに挨拶しとくわ」

 「管理人室にいると思います」

 「了解」


 メンバーの後ろ姿を、マナトは見送った。


 ……やはり、知っている人はいないか。


 マナトはマントのポケットから、今回の依頼のリストを取り出した。


 夜になり、周りは暗くなっていたため、壁に立て掛けているたいまつの火で、リストを照らした。


 改めて、見る。といっても、そこには村の位置を指し示したクルール地方の地図に、依頼主は村長とだけ、ラクダの数も数頭とアバウトで、交易対象は特産の漢方系乾燥草ということしか、書かれていない。


 「詳しくは、やっぱり、行ってみないと分からないな」


 ポケットにリストをしまった。


 と、ジェラードが回廊から、たいまつを持って、その後ろからは、リートが大きめの酒樽を転がしながら、回廊から中庭に出てきた。


 「お~い!管理人が交易再開を祝して、無料で酒樽解禁してくれるってよ~!」

 「今日泊まっているキャラバンの村のメンバーも、そうでないメンバーも、同志みんなで飲んでくれってことっす!」


 ご機嫌な調子で、ジェラードもリートも、みんなに向かって言った。


 「おぉ、いいですなぁ~」

 「おい、宿泊所にいるヤツら、呼んでこい」

 「私たちの商隊も……」


 そこいらで声が聞こえたと思うと、程なくして、中庭にたくさんのたいまつがゆらめいた。


 「かんぱ~い!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る