163 マナの力について

 「……」


 目的地付近と聞き、ミト、ラクト、そしてマナトも、少し緊張した面持ちになった。


 「ミト、ダガー準備しとけよ?」

 「ああ、分かってる」


 ミトとラクトが声を掛け合う。


 今回の依頼……ジェラードもリートも、それが虚偽であることを疑っている。


 ……状況によっては、交戦もあり得る。


 そう思うと、自然、緊張感が高まった。


 マナトも腰にかけた水壷とダガーを確認した。


 そんな中、リートとジェラードは何を思ったか、辺りをキョロキョロと確認するように見回し始めた。


 ……2人とも、なにかを観察してるのか?


 マナトも2人に何となくつられて、まわりを見渡した。


 砂だけだった世界から、草原へと移り変わる初期段階といったところ。


 大きな岩が所々に点在していて、乾燥に強い多肉植物が、岩の陰下あたりに生えていた。


 いわゆるステップ気候のような土地で、砂漠ではこの手の風景は割とよく見られる。


 「少し、違うっすねぇ」

 リートが言った。


 「あぁ、リートもそう思うか。やはり違うか……」


 ジェラードも、まわりに目を配りながら首を縦に振った。


 「何が違うんですか?」


 マナトは2人に問いかけた。


 「俺たちは、ひと昔前にも、このあたりを通ったことがあってな」

 「ここの土地は、多肉植物が生えるような環境ではなかったっすね。僕の記憶が正しければ、完全な砂だけの世界だったっす」

 「へぇ~、そうだったんですか」

 「そっす」


 しかし、その微妙な土地の変化は、先に進むにつれて顕著になってきた。


 多肉植物から、背の低い草がまんべんなく地面から生え、緑豊かな草原と変わってゆく。


 さらに緑の草原も、しばらく進むと大きな木が点在するようになり、進めば進むほど緑は繁ってゆく。


 ――チュン、チュン。


 「あっ、小鳥だ」


 小鳥が一羽、飛んでいて、商隊の少し先を旋回したかと思うと、歩くラクダのコブにとまった。


 「どうやら、このあたり一帯、大きく環境が変わったみたいっすね」

 「大きく環境が……そんなことがあるんですか」

 「まあ、かなり珍しいことっすけど」


 リートが振り向いて、後ろ向きのまま、前へと歩きつつ話を続けた。


 「考えられることとしては、このあたりには地下にマナの源泉があって、それが、なにか大きなきっかけがあったか、もしくは自然発生的に湧き上がってきたかで、生命が育まれる土地となったのかもしれないっすね」

 「マナの源泉か。なるほど~」


 ラクトが関心した様子でうなずいた。


 ――マナの力って、すごい……。


 マナトはリートの話を聞いて、改めてそう思った。


 「ふ~む……ククッ」


 ジェラードが、楽しそうに笑った。


 「湖の村……疑っていたが、この状況を見る限り……期待してもいいかもしれねえな」

 「それっすね」


 リートも、ニヤリと微笑んだ。

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