264 流れ星

 「あっ、ホントだ!」


 夜空に、一閃の光。


 満天の星が輝く夜空であっても、流れ星はとても珍しく、めったに見られない現象だった。


 マナト自身、ヤスリブの地を踏んで以来、目の当たりにしたのは初めてだった。


 「僕のいた世界では……」


 マナトが、流れ星が通りすぎた夜空を見上げながら、言った。


 「流れ星を見つけたら、流れ星が消えるまでに願い事を言うと、その願いが叶うって伝説があったんだ」

 「あははっ!なにそれ!」


 ミトが笑う。


 「あんな一瞬なのに、言えるハズがないじゃない」

 「まあ、そうなんだけどね、あはは」

 「でも、願い事かぁ、浪漫があって、いいね」


 ミトが夜空を見上げたまま、つぶやいた。


 「今度、流れ星を見つけたら、祈ってみようかなぁ」

 「へぇ、なにを?」

 「家族が、無事で生活していてくれますようにって」

 「そっか……」


     ※     ※     ※


 中央広場に面している、医療施設の入っている石造りの建物の2階。


 廊下を少し歩くとバルコニーとなっていて、広場が見渡せることができた。


 そこに、ラクトとサーシャ、また、ニナとシュミットもいた。


 「あっ!あそこ、酒場じゃないかな?」

 「お酒お酒~!」

 「あの高台の鐘、大きいなぁ!」

 「大きい~!」


 ニナとシュミットは、初めて来たキャラバンの村の景観が珍しいのか、キャッキャはしゃぎながら、バルコニーの端で、中央広場のあちらこちらを指差している。


 対してサーシャは、無言で、ひざまづいて合掌し、なにやら小さな声でささやいていた。


 「……なに、やってるんだ?」


 腕を組みながら、バルコニーの柱にもたれながら、ラクトはサーシャに問いかけた。


 「……流れ星」

 「ああ。いまさっき、見えたな」

 「願い事を」

 「……願い事?」

 「護衛のみんなが、一日も早く、元気になりますように……」

 「……」


 ラクトは意味が分からなすぎて、頭をかいた。


 「ラクトさん。改めて、今日は、ありがとうございました」


 シュミットが振り返り、礼を言った。


 「おう、いいって事よ」

 「あなた達が、あそこまで強かったなんて。キャラバンを勤めることは、生半可なことではなかったんですね……」

 「まあ、な」

 「サーシャさま。キャラバンの村のキャラバン達に依頼されたのは、やはり彼らの強さを知ってて……」


 シュミットの言葉を聞くと、サーシャが合掌を解いて、立ち上がった。


 「……あなた達が、ラピスの取り引きでアトリエに来たとき……」


 ラクトのほうに振り向く。


 マナのランプが、サーシャの顔と琥珀色の瞳を照らした。


 サーシャは言った。


 「ラピスを砕く直前、あなたともう一人に止められて、その時に、あなた達が強いことは、分かってた」

 「……あぁ、あの時か」


 少しして、ラクトは思い出した。

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