286 武器狩りの盗賊との戦い①

 「……仕方ねえな」


 向かってくる盗賊らを眺めながらムハドは言うと、懐から、木でできた細長い笛を取り出した。


 「なっ!?」

 「いったい、どういう……!?」


 ずっとムハドを見ていたミトとラクトが、非常に驚いた様子で目を大きく見開いた。


 「あんなちっちゃい笛が、武器ということなのか!?」

 「まさか、ありえない……!」

 「い、いや、もしかしたら、リートさんとかマナトみたいに、何らかのマナを取り込んだ能力者で、あの笛にも何らかの力が宿っているんじゃ……!」

 「す、すごい……そうだとしたら、やっぱり、ムハドさんはすごい人なんだ!!」


 ――ピュゥゥ~。


 鳥の鳴くような、遠くまで届くような笛独特の高い音が鳴り響いた。


 「むっ!?」


 なにかを察して、顔に傷跡の残る盗賊の頭が足を止めた。


 ――ピュ~ウゥゥゥ~。


 ムハドの笛の音は、時おり音程を変えながら、クラシックな旋律を奏でている。


 「なんだ、なにをしやがった……!」


 ムハドの笛の音を聞いて、盗賊達は警戒しているようだ。構え直して、不測の事態に備えている。


 ――し~ん。


 「……なにか起こっているような、なにも起こっていないような?」


 ミトが言うと、ラクトが強情に言った。


 「い、いや、なにか起こってる!ぜったい、起こってる!いま、盗賊達はものすごくダメージを受けて……俺はそう、感じる!」


 そして、マナトを見た。


 「お、おい、マナト!なにか、ムハドさん、したんだよな!?いま、ムハドさん、盗賊に攻撃したんだよな!?」

 「いや、僕にも分からない……!」


 マナトも困惑していた。いったい、ムハドはなにをしたのか、その意図をはかりかねていた。


 その時。


 ――タタッタタッタタッ……!


 ラクダ達と一緒にいた馬が走ってきて、ムハドの前で止まった。


 「……んっ?どうした?」


 ムハドが笛を懐にしまいながら、困惑した表情のミト、ラクト、マナトの3人に気づいた。


 「む、ムハドさん、さっきの、笛は?」


 ラクトの問いに、ムハドは即答した。


 「あっ、馬、呼んだだけだ!」

 「えぇ……」


 ――バッ!


 盗賊の頭が再び駆ける。


 「貴様どこまでもふざけやがって!!」

 「それっ!」


 サッと、ムハドは鮮やかに馬に飛び乗った。


 そして、馬の頭部に取り付けられている手綱を掴むと、盗賊の頭を見下ろした。


 「そうか!馬術だ!」


 ミトが、気がついたように叫んだ。


 「ムハドさんは、馬術の達人なんだ!」

 「そうだったのか……!馬に乗ったムハドさんは、つまり、最強ってことだな!!」

 「やっぱり、ムハドさんは、すごい!!」


 興奮したミトとラクトが、ガッツポーズしている。


 「はっ!」


 ムハドが手綱を豪快に引いた。


 ――ヒヒ~ン!!


 馬の前足が大きく浮く。


 「おぉ……!」

 「か、かっこいい……!」


 ミトもラクトも、その姿に、感動した。


 あまりにも、馬にまたがったムハドが、勇ましかったのだ。


 まるで、数多の戦を勝ち抜いてきた、不敗の大将軍ように、革命を成し遂げた英雄のように……その姿には、後光が差していた。


 「くっ!馬術が優れているのか……!!」


 盗賊の頭も、警戒して、攻撃に備えて構え直した。


 ――タッ。


 馬の前足が着地した。


 馬もムハドも、盗賊の頭に、背を向けている。


 と、ムハドが、リート、また他のキャラバン達を見た。


 「それじゃ、あと、よろしくな!」


 ――タタッタタッタタッ。


 馬が走り出し、ムハドは戦線から離脱した。


 「……ふぁい!?!?」


 ラクトが困惑の入り交じった変な声でムハドに返答した。

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