584 オルハンと、ルナ

 ――ファサッ。


 テントの出入り口が開いた。皆が振り向く。


 「あっ」

 「えっ」

 「すみません、オルハン先輩は……」


 ルナが、入ってきた。


 「ルナ……」


 オルハンは一瞬ルナを見たが、前を向き視線をそらした。


 「……決勝は、どうなってる?」

 「いま、一対一で引き分けてます」

 「……」

 「……」


 沈黙。


 「おい、みんな、外に……」

 「構わねえよ、ガスト。気にすんな」


 なんとなく空気を察して、ガストは仲間たちをテントの外に連れ出そうとしたが、オルハンがそれを止めた。


 「……アイツのとこに、行かなくていいのか?」


 前を向いたまま、オルハンがルナに聞いた。


 「アイツって、マナトさんの、ことですよね……」


 ルナが言った。


 「マナトさんとは、先ほど、ここに来る前に会いました」

 「……」

 「……少し、話しました。あと、手紙を渡しました。だけど、それだけでした。そして最後に、私たちのサロンが勝つと言い残して、ここに……」

 「……えっ?」

 「たぶん、オルハン先輩が思っているような関係では……」

 「……」

 「私も、オルハン先輩と、同じです。それに今は何より、サロン対抗戦の決勝戦ですから……!」

 「……フゥ~」


 オルハンはため息しながら仰向けになった。


 「行きましょう、最後の、ウテナの戦いを見に!先輩、動けますか?」

 「……当然だ!」


 ――バッ!


 オルハンが寝台の上で飛び起きた。そして、さっそうと寝台から跳んでガスト達を越え出入り口へ、ルナの隣へ着地した。


 「お前ら、俺は見届けなきゃならねえから、会場に戻るぜ」

 「あっ、先輩……!」

 「そういえば、おい、ガスト」


 オルハンが、ガストに視線を向けた。


 「結構、たのしくやってるみてえじゃねえか」

 「!」

 「ちょくちょく、噂は聞いてるぜ。なにかとやらかしてるみたいじゃねえか」


 するとオルハンはニヤリと笑って、ガスト達に言った。


 「あんまり国自体がいい雰囲気じゃねえからな。こういう時こそ、ちょっと、かましてやってもいいんじゃねえか?」


     ※     ※     ※


 巨大テントの中へ。


 ――わぁ~~~!!


 熱狂と興奮の歓声が、ステージ中心へと注がれるのを感じながら、ルナとオルハンはステージ上手へと足早に歩を進めてゆく。


 「……あれれれ!?!?」

 「んちょっっ!!」

 「るるるルナとおおおオルハンじゃねぇぇぇかぁぁあああ!?!?」


 ――んおぉ~~~!?!?


 一部、その熱狂が、ルナとオルハンに注がれる。


 「ちょちょちょっと2人で戻ってきたって……!」

 「あわわわわ……!」

 「いやもうそういう……!?」

 「そういうことでしょ!?!?」

 「ひゃぁああ……!!」


 所々で騒ぎが起こるのを意にも介さず、2人はサロンのみんなのいる、ステージ上手へ。


 「オルハン!?ルナ!?」

 「!」


 ライラがイチ早く2人に気づき、次いで、フェンとフィオナも振り向いた。


 「もう大丈夫なの!?」

 「おう。そんで、戦況は?」

 「これからだよ。相手側が、少し話し合っていたからね。……あれが、最後の相手だ」


 言い、フェンがステージ中央を指差した。


 ステージ中央には、ウテナの後ろ姿。


 ――ザッ……。


 そして、ウテナの向かいには、金髪の長い髪の、琥珀色の瞳をした女性が、立っていた。

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