434 ターバン②/アブドと執事の会話

 「……まあ、少し真面目なこと言うと、今回の一件で、ジンがまだ、マナトくんに化けられることが分かったじゃないすか」


 リートの言葉に、マナトとミトは、うなずいた。


 「もう1人、ウテナってコは、ジンに化けられた弊害を、国内ではかな~り受けているんすよ。それこそ、自由に外出できないくらいに」

 「そうだったんですか……」


 ミトが言った。


 「つまり、マナトもいずれ、そうなると……」


 リートがうなずく。


 「まあ、マナトくんはほとんど認知されてないし、そもそも完全な部外者なので、ウテナってコほど影響は出ないと思うんすけど」

 「いやでも、確かに……」


 マナトはターバンを深めに被った。


 「顔は、あまり出さないに越したことはないって、ことですね」

 「そゆことっすね。目、半分隠すだけでも、ぜんぜん、印象変わるんで」

 「分かりました」

 「そんじゃ、リートさん、岩石の村の納品前に、腹ごしらえいきます?」


 ケントが言った。


 「おっ、いいっすね~」

 「ミト、マナト、お前らも来るか?」

 「あっ、はい!」

 「行きます~」


 4人は部屋を出た。


     ※     ※     ※


 定例の公爵会議に出席するため、アブドは自らの公宮を出て馬車に乗り、会議場である宮殿に向かっていた。


 隣に、執事。また、向かいには、甲冑を着た護衛も乗っている。


 「公爵」


 執事がアブドに話しかけた。


 「今日は、ムスタファ公爵と、イヴン公爵長の2名、欠席されるそうです」

 「なに、イヴン公爵長も?」


 アブドは執事に聞き返した。


 「は、はい」

 「病か?」

 「あっ、いえ、詳しい理由は分からないですが……」

 「ふむ……」

 「ムスタファ公爵のほうは、ご存知だったのですか?」

 「ああ。諜報員の本部でムスタファと会った際、言っていたからな。……フフっ」


 アブドは少し笑いながら、続けた。


 「それどころか、あの男、今日の朝も、わざわざ私のもとに書簡を送りつけてきおったのだ。どうしても、今日はいけないとな」

 「そこまでされてたのですか、ムスタファ公爵は」

 「彫刻を依頼していたらしいのだが、今日、届くらしい」

 「そうだったのですか」

 「私には解らん趣味だ」

 「……しかし、困りましたね」


 執事の顔色は、あまりよくなかった。


 「……困ったとは?」

 「もちろん、ウテナというキャラバンの排除論が、濃厚になっていることです」

 「……」

 「公爵長を除き、彼女の生命の保護、そしてジンとの徹底抗戦を指示しているのは、アブド公爵とムスタファ公爵の2人のみで、他の公爵らは皆、ウテナは排除するべきとの見解。正直、かなり向かい風です。そんな中での今日の会議で、ムスタファ公爵がいないというのは、やはり、痛すぎる……」

 「問題ない」


 アブドはきっぱりと言った。


 「私一人出ていれば、問題ない。方針も、変わらぬ」

 「し、しかし……こちらの後ろ楯が誰も……」 

 「ちなみに、今日の会議にあたって、ムスタファ公爵は秘策を、書簡に書き記しておったぞ」

 「本当ですか……して、なんと?」

 「君の弁舌に、任せる、と」

 「え……べ、弁舌って……」

 「フハハ!」


 アブドの豪快な笑い声が、馬車の外にも漏れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る