636 疑惑と可能性

 「あぁ、そうだったわ、ナトリウムねナトリウム……えっと、私、その反応、忘れちゃったわ」


 サーシャが言うと、マナトは顔を上げた。


 「そうですよね。……ほら、ナトリウム下だと、水が触れた瞬間にイオン化して、HとOで、水素ガスが発生してしまうヤツですよ」

 「水素ガス……あぁ、なるほど。……かなりヤバいってことね」

 「はい。正直、他のところが、僕もちょっと分からないんですけど」

 「ちゃんとした、兵器ってことは、間違いなさそうね」

 「……そうだと思います」

 「あ、あの~」


 会話に合わせて顔を左右に振っていたミトが、小さく手を上げた。


 「ごめん、ちょっと何言ってるか、本当に分からない」

 「あぁ、ごめん」


 マナトはミトに言った。


 「簡単に言うと、爆発させるための方程式なんだよ、これ」

 「えっ!」

 「少なくてもこのNって書いてるほうのは、そういうことなんだよね」

 「爆発させるって……」

 「おそらく、ジンをってことでしょうね」

 「す、スゴい……!」


 ミトはマナトの持つ、マナの兵器の図を改めて見た。


 マナトやサーシャの目に止まった箇所の他にも、入り組んだ管の絵や文字がたくさん書かれてある。


 「……あっ、いや、えっ?」


 ミトは顔を上げた。


 「てゆうか、マナトとサーシャさんがいた世界の文字ってことだから、つまり、そういう人が書いたってことに……」

 「それも、私というよりも、おそらくマナトのようなかたちでヤスリブに来た可能性が高いわ」

 サーシャが言った。


 「マナトのような……転移って、ことだね」

 「そう。私はもともと、記憶はなかったから」

 「メロの国の誰か……とか?」

 「ムハド隊長が言ってたわ。おそらくこの図はギルタブリルのキャラバンのものだろうって」

 「あっ、それじゃあ、その中に?」

 「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわね」

 「と、言うと?」

 「指示だけ出してて、本人はギルタブリルにいるのかも」

 「あぁ、なるほど」

 「……どう思う?」


 サーシャはマナトのほうを向いて、尋ねた。


 「……」


 ……が、マナトはサーシャの声が耳に入っていない様子で、自ら持つマナの兵器の図を見つめていた。


 「マナト?」

 「えっ?あっ、うん。……あっ、ごめん、なんだっけ?」

 「もう……なにぼ~っとしてるのよ」

 「あはは、ごめん」


 ちょっとほほ笑んだ後、すぐにマジメな顔になって、マナトは言った。


 「これを書いた人が、どんな人なのか、想像してた」

 「マナの兵器の図を書いた人?」

 「うん。……正直、僕も前の世界での知識だったり知恵を利用して、なんかある度に役に立ててはいるんだけど……」


 少し、マナトの目が細くなった。


 「なんだろう……ちょっと、この図が、なんだか非常に、怖くなってきたというか、こういうかたちでマナの兵器なるものを作って、使用して……そんなこと、していいのだろうか、とか、考えちゃって……」

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