637 実在する神、ジン
「なるほど……」
サーシャは座っていた椅子から立ち、個室の扉を少し開けた。すぐそばにハディーシャが立っている。
「サーシャさま」
「……大丈夫そう?」
「はい、キャラバンの方たちが出入りするくらいで、特には」
「……ちょっと、長くなるかも」
「大丈夫です」
「……あっ、じゃあ、」
サーシャは自分の座っていた椅子を外に出した。
「疲れたら、座って」
サーシャは言うと、扉を閉めた。
「優しいね、サーシャさん」
ミトがにこやかに言った。
「ウフフ……さて、」
ミトに笑顔を返すと、サーシャは切り替わった様子でマナトに話し始めた。
「私たちの住んでいた、地球。そこには、人類以外に、人間以上のスペックを持つ生物というのは、いなかった」
「あっ、それ、マナトも言ってたことだよね……!」
「……」
サーシャの言葉にミトは反応し、マナトも無言でうなずいた。
「実際は、サバンナではライオン、密林ではトラ、海でもサメなど、その環境における生態系の頂点はそれぞれいるんだけど……事実上、人類はそれらの生物を知性によって駆逐することに成功しているといっていい状況。そしてその後は……強いて言えば、人間。地球の歴史を考えれば、文明後は、人間と人間の争いを延々やって来たといえるわ」
「……」
「……」
「だけど、このヤスリブは、違う」
「!」
「!」
「ジンという、人間社会に介入してくる、かつ、人間よりも強いというか、人間とは別の生物が存在している」
「うん……!」
ミトは強くうなずいた。
「現に、ラクトも危なかった。ギリギリ助かったけど、ジンの標的になっていたのはたしか」
「……」
「でもこのジンという存在、ある意味、似ているものが地球にもあったと考えられるわ」
「えっ?」
マナトはうつむいていた顔を上げ、サーシャを見た。
「いや、さすがにそれは、ないんじゃ……?」
「そうかしら?少なくても、これかなってものは、私は向こうの言葉で言うことはできるわよ」
「そ、それって……?」
「神よ」
「神……!」
「神という存在については、長い間議論されてきたわ。特に、西洋ではね。東洋とは、少し違う概念だから」
「う、うん……」
「その本質のひとつに、『超越した力の作用』というものがあるわ。天地創造もその中のひとつ……だけど、ここで大きな問題が生じる」
「と、いうと……?」
「ジンは、ある側面では『実在する神』ということになると思うわ」
「実在する……」
「そう……そして、その上で」
サーシャは目を細くし、そして言った。
「もし神が実在するとしたら、人類の本質上、全力で排除しようとすると思うの……地球だったとしても、ヤスリブだったとしても……なぜなら、自分たちの生存を脅かす、脅威だから……!」
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