638 地球の歴史、ヤスリブ世界の人々

 ――ホモ=サピエンスが、自らよりも優れた存在を許せるとは、俺は、思えないんだ……。


 「……そういえば、ムハドさんも、同じようなこと言ってた気がします」


 マナトは少しうつむきがちになって、言った。


 「すみません……やっぱり僕はどうしても、前の世界とヤスリブを、比較してしまう」

 「フフ……」


 サーシャは微笑んだ。


 「まあ、今は私も、そうだから」

 「あっ、そっか」

 「とはいえ、ジンの討伐は、ヤスリブ世界の人間たちにとって悲願といってもいい。私はマナトの気持ちも分かるけど、ヤスリブ世界の人々の気持ちも分かるわ」

 「そうですね」


 マナトはうなずきつつも、言った。


 「……だけど、かつてのダイナマイトも、そうだったじゃないですか」

 「……」

 「あの~」


 ミトがおずおずと手をあげた。


 「マナト、サーシャさん、いったい、なんの話を……?」

 「あぁ、そうだよね」

 「このヤスリブにはない、ダイナマイトという爆弾というものが私たちの世界にはあるのよ」

 「へぇ?」

 「もともとは固い岩盤を破壊して、交通の便をよくするための、土木工事のために使うという……そうね、このクルール地方で言えば、鉱山の村の鉱山で、洞窟の穴を広げるとか」

 「あぁ、なるほど」

 「……でも、それが、」


 サーシャはミトに言った。


 「そういう用途とは別に、戦争で使われるようになった……つまり、人を殺すために使われるようになっていったっていう、そういうのがあってね」

 「人を殺す……なんで、そんなことになっていったんですか?」

 「……」

 「……」


 ――それが、人間だから?


 「……フフッ」


 マナトは笑ってしまった。


 「マナト……?」

 「いやまあ、そうなるよなぁって、思って」

 「フフ……」


 サーシャも苦笑した。


 「ホント、なんでなのかしらね……」

 「あっ、サーシャさん、同じこと考えてました?」

 「ええ、でしょうね」


 ……もちろん、理由ならいくらでも説明できる。


 しかし、その理由を説明したところで……ミトをはじめ、このヤスリブの人々が心から納得することはないと、マナトもサーシャも思った。


 ――コンコン……。


 扉がノックされる音。


 サーシャが扉を開ける。


 「おう、サーシャか。マナトはいるか?」


 召し使いハディーシャの隣に、ムハドが立っていた。


 「はい」


 マナトもサーシャの隣から顔を出した。


 「取り込み中、済まない。ムスタファ公爵率いる諜報部隊から情報が入った」

 「諜報部隊から……!」

 「公爵の住む公宮が、反乱したメロの国民の一部に襲われたようだ」

 「公宮が……!?」

 「さらにその現場となった公宮の近くで、マナト……は、ここにいる。つまり、マナトに化けたジンがいたという情報が入った」

 「!」


 (マナの兵器 終わり)

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