322 公宮内にて
「……んっ」
ウテナは目を覚ました。
「……あっ!?」
跳ね起きる。
……ジンは!?オルハン先輩は!?
「……?」
どこかの建物内に、ウテナはいた。そこまで広くない部屋の中。
どうやら、気を失っている間に、担ぎ込まれたらしい。
「……」
大理石の台に寝かされていたようで、扉一つと、その向かいに窓が一つ。
目の前には、テーブル一台と、イスが二脚。
そして、マナ石のランプが大理石の壁の四隅に設置され、部屋を明るく照らしていた。
……担ぎ込まれて、どれくらい経ったのかしら?
思いながら、ウテナは窓の外を眺めた。星空と、静寂の、巨木の点在する通りが広がっている。
――カチャッ。
「目覚めたようだね」
「あっ!ルナのお父さん!」
外の景観をウテナが眺めていると、ムスタファ公爵と、以前ルナを診ていた医者が入ってきた。
「ウテナさん、容態のほうは?」
矢継ぎ早に、医者は言った。
「あっ、大丈夫です」
「どこか、痛いところは?」
「いえ、特にありません」
「そうですか。よかった」
医者はウテナを見ながら、安心した様子で言った。
「あの、オルハン先輩は!?」
「深めの切り傷はありましたが、命に別状はありません」
「あぁ、よかった……」
「いまは、彼も意識を取り戻して、ガツガツお肉を食べてます。失った血をつくると」
「あはは、それなら、もう、大丈夫ですね。……本当に、よかった」
ウテナは安堵した。
「あの、ちなみにここって?」
「あなた達が倒れていた場所から最寄りの、公爵の公宮内の一室です。緊急事態ということで、臨時で利用させてもらってます」
「あぁ、なるほど」
「あなたも大丈夫そうで、なによりです。それでは、私はオルハンさんの包帯を取り替えて参りますので」
医者は部屋を出ていった。
「ジンと、戦っていたのだね?」
「……はい」
ムスタファに問われ、ウテナはうなずいた。
「それで、ジンは、どうなりましたか……?」
「姿を消してしまったよ」
「ジンに攻撃されて、気を失う直前に、ルナのお父さんの声が聞こえたような気がしました」
「ああ。我々も、動いているところだった」
ムスタファはうなずいた。
「私の諜報部隊が大通りでジンと思われる黒髪の男の情報を、酒場内で入手したのだ」
ムスタファ公爵は国内のさまざまな情報を収集する諜報活動の一旦を担う公爵で、国の至るところに諜報員を配備していた。
「しかし、一歩、遅かったようだ」
ムスタファ公爵は悔しそうな顔をした。
「我々と交戦する意思は持っていなかったらしく、巨木のエリアに逃げ込まれ、うまく煙に巻かれてしまった」
「そうだったんですか……」
すると、ムスタファ公爵がイスに座り、テーブルの上に紙を置いた。また、ウテナにも、イスに座るようにうながした。
「あの現場に居合わせたのなら、分かっていると思いますが、」
ウテナがイスに座った。
「……私たちは、負けました」
――ギュッ。
そして、着ている服の裾を、ウテナは両手で握りしめた。
「……少し、話を聞かせてほしい」
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