179 運搬依頼

 「あぁ、あったんですね、交易会議」

 「そっ。マナトくんが村を出ている間にね」


 ステラは言いながら、大衆酒場の大扉にリストを貼る作業を続けた。


 ……運搬依頼は、まだ、やったことないなぁ。


 「ステラさん、運搬依頼って、どんなことやるんですか?」

 「簡単な話よ。他の国と国や村と村、お互い必要としている物資同士を、双方に運搬するって感じの依頼ね」

 「なるほど」

 「増えてきたのよ、運搬依頼。キャラバンみんなのお陰で、クルール地方でこの村の信頼度が高まってきたのが、やっぱり一番の理由かなって」

 「へぇ~。みんな、すごいんですね」

 「ウフフっ。その中に、マナトくんも入ってるんだからね?……はい、お~わり」


 ステラは運搬依頼のリストの紙を貼り終えた。


 マナトはステラが新しく貼った、運搬依頼のリストを眺めた。


 リストには、国と国や、村と村の往復を示す図と、それぞれの運搬物資、さらにそれによる報酬が書かれていた。


 その中の一つに、マナトの視線は集中した。


 一つは行ったことがある。すなわち、鉱山の村。


 もう一つは、まだ行ったことがない村だった。


 「鉱山の村と……ええと、これは、岩石の村?」

 「そっ、正解~!岩石の村よ」

 「鉱山の村には行ったことあるけど、岩石の村は行ったことないなぁ」

 「いいんじゃないかしら。行ってみたら?……あっ、でも……」


 ステラは、なにやら思うところがある様子で、口をつぐんだ。


 「えっ?どうしたんですか?」

 「うぃ~っす」


 マナトとステラが話していると、ラクトが大衆酒場前にやって来た。


 「やあ、おはよう」

 「あら、ラクトじゃん。朝早いのね」

 「何言ってんだ、俺はいつでも朝早えぞって……おっ?」


 ラクトは先のマナトと同じように、運搬依頼のリストを興味深そうに眺め始めた。


 「それでステラさん、さっきのなんですけど……」


 マナトはステラに顔を向けた。


 「あぁ、いや……この前ね、岩石の村に交易に出向いたキャラバンのコ達が言ってたんだけど、そんなに、いい村じゃなかったっていうか……」

 「あちゃ~。そうだったんですね」

 「石の彫刻で有名なのよ、岩石の村。芸術家が多く在籍している村でもあるの」

 「へぇ!なかなか華やかそうですけどね」

 「そうなのよ。でもね、ちょっと、交易を担当している村長の娘が気むずかしかったらしくて……」


 マナトとステラは、少し長く会話していた。いつの間にか、ラクトの姿はなかった。


 会話が一区切りしたところで、ステラが伸びをした。


 「う~ん!……それじゃ、あたしも銭湯行ってこようかな~。じゃね!マナトくん」


 ステラは銭湯へと向かって行った。


 ……あまり、岩石の村には、行かないほうがいいかな。少し、相手側が面倒そうな印象だ。


 ステラの話をいろいろ総合した結果、マナトはそう考えていた。


 と、ラクトが大衆酒場の中から出てきた。


 「マナト!」


 ラクトがリストをマナトに見せつけた。


 「次、これ行こうぜ!鉱山の村と岩石の村の、運搬依頼!てか、もう、受注してきた!ケントさん隊長で!」

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