180 長老の家にて①

 ラクトは、運搬依頼の件を、ケントとミトに知らせると言い、あっという間に走り去っていってしまった。


 マナトも大衆酒場を離れ、ステラに会いに、銭湯へと向かった。


 ……ステラさんに、また、コスナを預かってもらわないと。


 期間が長くなりそうな交易に行く際は、ステラにコスナの世話をお願いしていた。幸い、コスナはステラに懐いていて、ステラもコスナを気に入ってくれていた。


 ……受注してしまったなぁ。


 ラクトが受注してしまい、結局、岩石の村に行くことになってしまった。


 ……まあ、仕方ない、か。


 マナトは気持ちを切り替えて、銭湯へと向かった。


 銭湯の前までやって来ると、番台が掃除をしていた。


 「番台さん」

 「やあ、マナトくん」

 「ステラさん、来ませんでした?」

 「いや、来てないよ?」

 「あれ?あっ、そうですか……」


 ……結局、銭湯行くのやめたのかな?


 マナトは銭湯を後にした。


 ……スマホがあれば楽なんだけどなぁ。


 こういう時は、どうしても、マナトは現代社会の便利さをしみじみ思ってしまう。


 「よし、じゃあ……」


 マナトは、長老の家へと歩を進めることにした。


 ステラは伝報担当として、長老の家に頻繁に出入りしていて、ステラに会うのは長老の家にいるのが一番効率的だった。


 もしくは、ミトの家でスタンバイしておけばだが。……まあ、それは、一旦置いておいて……。


 村の中央部を抜け、砂漠寄りのエリアへ。


 ほどなくして、長老の家に着いた。


 ――コン、コン。

 扉を叩いた。


 すぐに扉は開いた。


 「おう、マナトか!」

 「こんにちは、長老。あの、ステラさんって……」

 「ちょうどよかったわい!お主の家に行こうとしていたところじゃ!ちょっと、上がっていけ!聞きたいことがあるのじゃ!」

 「へっ!?」


     ※     ※     ※


 長老の家の居間……かつて、マナトがこのヤスリブ世界に入ってきたとき、長老と膝詰めで延々話し込んだ場所に連れてこられた。


 「なぜじゃ?なぜ、お主の世界では、日本では、自殺がそんなに多いんじゃ?」


 長老がマナトへ詰め寄りながら言う。


 「そ、そんな話もしてましたっけ?」

 「しとった。お主の口述を筆記したヤツを、まとめとったら、その件が出てきたからの」

 「はぁ……」

 「いや、お主の話を聞いていた時は、何となく異国の物語として受け入れていた。じゃが、こうしてまとめてみれば……日本はも~のすごく豊かではないか」

 「えっと~、はい」

 「住居も衣服も食品も、溢れに溢れかえっているではないか!」


 ……なんか、攻められている!?


 「えっと~」

 「いや、分からぬ!一切、分からぬ!大戦というものを経験したものの、お主の国は、豊かになったのではないのか?」

 「いや、その……」


 長老に、もはや尋問のように問い詰められている時だった。


 「おいおい、じいちゃん。ちょっと、それくらいにしとけよ。どの国だって、いろいろあるって、ことだろ?」


 久しぶりに聞いた、でも印象的な、少し低めの声がした。

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