563 オルハンVSマナト⑥

 やろうと思えばその腰につけているダガーを抜いて近接に持ち込んで、オルハンの身体へと有利な状況で斬り込める瞬間は、何度かあったはずだった。


 それが、マナトは戦いが始まってここまでの間、自分からオルハンに間を詰める行為というものはしておらず、多少詰めたとしても、その上で水流での攻撃に終始している。


 ……もしかしたら、近接での斬り合いは、苦手なんじゃないか?


 そう、ガストが思ったとき、


 「近接戦闘だ!!オルハン!!」

 「おっ……!」


 ステージ上手側、男が大声でオルハンに指示を出した。


 「遠距離だと彼の思うツボだ!ウォーターアックスは迫力はあるけど、遠距離だとどうしても、水流に起動力で負ける!」


 ……あの男も、俺と同じこと考えてたみたいだ……!


 「ウォーターアックスは伸ばさずに、自ら距離を詰めて退路を断ちながら、多少強引でもインファイトにもっていけ!戦いを見ている限り、彼は剣術は使えない!!」

 「!」


 ――タタタ……!


 オルハンが駆けつつ、ハッとして男に視線を送る。


 「あと、ステージ側面で水流が移動してるぞ!!気をつけろ!!」

 「……」


 そして、コクリとうなずいた。


 「あはは……」


 男の言葉を聞き、マナトのほうは苦笑している。


 「参ったな……すっっごい的確」


 すると、急にマナトはくるりと振り返った。


 「スゴい頭のいい人がいるよ……」

 「そのようだね~」


 ステージ下手側、自らの仲間と、話し始めた。


 ――んん~?


 会場全体が、変な空気になった。


 マナトの口調が、戦闘時の張り詰めていたものから、一気に世間話をするようなテンションに変わってしまっている。


 まるで、戦いがもう終わってしまったような、そんな印象を会場に与えた。


 「これからのことを考えると、これ以上戦ってもって、感じじゃない?」

 「それじゃあ、降参する?」


 マナトと会話していた仲間の男が、言った。


 ――えぇ~!!!


 「いやいや、えっ、降参!?」

 「こんなに優勢に事を運んでおいて、降参とかバカなの!?」

 「そうだぞ!」

 「最後まで戦えよ!」


 マナトと仲間の男のやり取りに、観客側のほうが騒然となった。


 ――タッ!


 「フザけんな!!」


 そして、オルハンが跳躍していた。


 ――ズァァ!!


 ウォーターアックスが、さっきまでマナトが立っていた場所に亀裂を入れた。


 ――スタッ。


 そのマナトは一瞬のうちに、石柱の側面を足場にして、垂直に着地している。


 「アイツ、また瞬間移動しやがった……!」


 ガストから見ていて奥のほうに逃げたため、ウォーターアックスに隠れはしたが、それにしてもマナトの速さは異常だった。目で追えなかった。


 「お前……!」


 直立して顔だけ横に向け、オルハンはマナトを睨みつけた。


 「ここで降参したら、ゆるさねえぞ……!」

 「……」


 それに対して、マナトはそのターバンの下から少し見える黒い瞳で、静かに、オルハンを見つめ返している。


 ――タッ。


 「よっと。……オルハンさん、と、言いましたね?」


 マナトは言いながら、石柱からステージへと降りた。


 「……ああ」


 オルハンが、返事した。


 「ひとつ、聞かせてください」

 「……なんだよ」

 「どうして、そんなに、僕と戦わなければならないのですか?」

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