564 オルハンVSマナト⑦
「……」
顔だけ向けていたオルハンが、身体ごとマナトへ向けた。
「あなたは、最初からそうでした」
マナトが言葉を次ぐ。
「僕に対して、手負いの身であったにも関わらず、捨て身のような攻撃を仕掛けてきた……」
――ざわ……。
「……お、おい、なんか話してんぜ?」
「なんだ?なんだ?」
観衆はざわつきながらも、自然、2人の会話を聞こうとして、少しずつ静かになっていった。
「そして、その原因がジンの存在であるのかと思えば、そうではなかった。あのとき、僕の潔白が証明された後も、あなたの僕に対する姿勢は、変わらなかった」
マナトはチラッと、再びステージ下手側に視線を注いだ。
すると、おそらくリーダー的な存在であろうイケメンな男が、マナトにうなずいていた。
マナトが改めて、オルハンに向かって言う。
「あなたに、僕はなにかしたのでしょうか?それが、どうしても、分からないのですが……」
「……単純な話だ」
オルハンが、口を開いた。
「俺は、ルナのことが好きだ」
「!」
「……」
……これ以上、言わなくたって、お前なら、分かってんだろ……!
オルハンは黙ったが、そう、マナトに訴えかけているように、ガストには見えた。
――し~ん……。
静寂。オルハンのその言葉を聞いたマナトだけでなく、観客も皆、一瞬、言葉を失ってしまった。
だが次の瞬間、
――キャァぁやぅうわぁぁあああ~~~!!!
「えっ!?いま、オルハン……えっ!?」
「告白!?告白したよ!?告白したわよね!?!?」
「いや~~~ん!!!」
「公開告白ぅ!!」
「おいおい男らしいじゃねえか!!」
「いや見直したぜ!!オルハン!!」
黄色い歓声と、オルハンへの応援が、観客席から降り注ぐ。
――お、オルハン先輩!?
「お、おいガスト、ルナって……!?」
「そ、そりゃお前、ルナっつったらムスタファ公爵の公爵令嬢の……!」
「いやでも、えっ!?ガスト!?」
「いや俺に聞かれても……!」
ガストも仲間達も、いきなりのオルハンの発言に仰天した。おそらくキャラバンになってからの繋がり……まったく知らなかった。
さらに、
「……あっ、ルナ公爵令嬢が……!」
誰かが言った瞬間、
――フゥゥウウウ~~~!!!
「うぇぇえええ!?本人、いるんですかぁぁあああ!?!?」
「えっ!?どこどこどこ!?!?」
観客席のほうが爆発的な喧騒に包まれ始め、一気に混乱し出した。
「……」
そんな中、マナトは周りと同じように、驚いた表情を隠すこともなく、その場で立ち尽くしていた。
だが、やがて、
「そういう、ことか……」
マナトは言った。
「そういう、ことだったのか……なるほど、そういう……」
なにか、ようやく納得がいったようで、何度がマナトはつぶやいている。
「ふぅぅ……」
そして、一度深く、ため息をした。
「……」
そして改めて、マナトが、オルハンを見据えた。
ターバンの下で、どういった表情かは、分からない。だが少しだけ見える黒い瞳は、まっすぐに、オルハンを見つめていた。
「……ミト、やっぱり、もうちょっと、やるね」
オルハンに視線を向けたまま、マナトは言った。少し、口調に緊張感が出てきた。
それは、なにかを決意した人の口調のようでもあった。
「はいよ~」
さっきまで会話していたミトと呼ばれた男は、相変わらず呑気な声で返事した。
「へっ、ようやく本気に……」
オルハンが言いかけた。
だが、
――バシュッッ!!
「あっ……!!」
マナトの姿が、消えた。
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