565 オルハンVSマナト⑧

 ――パシャッ……。


 石柱の下……マナトのいなくなったその場所で、小さな水しぶきがあがる。


 ――フッ……。


 オルハンの茶色い髪、深緑に輝く肩掛けが、風で揺れた。


 「なに……!」


 石柱の下の水しぶきがステージへと落ちきらないほどの、まばたきをするもないその一瞬に、マナトはオルハンの目の前を通過していた。


 そして、オルハンが振り返ったときにはもう、マナトがステージ中央付近に戻って、その両手を引いて構えていた。


 「コイツ……!」


 わざとオルハンの近くを通り過ぎたようにも思える動き。


 これまでになかった、相手を威嚇するような、好戦的な姿勢。


 ――シュルル……。


 再び、マナトの身体を水流が巡る。


 ――シュゥゥゥゥ……!


 そして、両手に、集まってゆく。


 「オルハンさん」


 マナトが構えたまま、口を開いた。


 「それほどの決意で、このステージの上に立っていたんですね。それも、あの時から……正直、驚いてますし、それ以上に、感動しています。ルナさんにも、届いていますよ、きっと」

 「!」

 「だからこそ、僕も、降参なんて言ってられないですよね」


 ――シュゥゥ……。


 マナトの両手で圧縮された水が、完全に収まって見えなくなった。


 「悔いなくいきましょう……オルハンさん!」


 ――ピュゥゥウン!!


 マナトがテッポウウオを放つ。


 「勝つのは俺だ!!」


 オルハンがウォーターアックスを振るう。


 ――ザンッ!!


 ウォーターアックスが、水の光線を真っ二つにした。


 「その技はもう見切っ……!」


 ――ピュゥン!!


 「なに!?」


 2撃目。斬撃のあとに発生する隙を狙われた。


 「チッ!」


 とっさに、オルハンは振り抜いたウォーターアックスの持つ手を素早く入れかえた。


 「間に合え!!」


 振り抜きざまからの返す刀で、2撃目を斬り払う。


 ――ザンッッ!!


 「よし間に合っ……」


 ――ピュンピュンピュンピュン……!!


 「なに!?」


 マナトの連続テッポウウオ。水の光線が、オルハンに降り注ぐ。


 「連打できるのか……!!」


 もうウォーターアックスでの応戦が間に合わない。オルハンがほとんど倒れながら跳躍して回避した。


 ――ビビビィィイイイ!!


 「ぐぅ……!」


 左肩と右足に水の光線をくらう。


 この水の光線、くらっても出血の心配はないが、棒で突かれたような重さで、ダメージの蓄積はあった。


 「その距離じゃダメだ!」

 「そうよ!マナトくんに距離をとらせちゃダメ!」

 ステージ上手から声があがる。


 「てゆうかバカ!!なにマナトさんに本気出させてんのよ!!」

 一人だけ、別な角度で、本気で怒っている。


 「そうだった……!」


 ――タッ!


 立ち上がるや否や、その足でオルハンが駆け出す。


 「いくしかねえ……いくしかねえんだ!!」


 ――ピュンピュンピュン……!!


 容赦のない水の光線を浴びながら、オルハンは腕をクロスさせ、ウォーターアックスを前に突き出して、前へ、前へと突き進む。


 「ぬぅぅううおおお……!」


 その時、


 ――ジジジッザザザァァ……!!


 ウォーターアックスが、形状を変え始めた。


 その刀身は広く平たく丸みを帯びていき、オルハンの頭と上半身を覆ってゆく。まるで、オルハンを守り包む盾のような形状。


 ――ザァザァザァァ……!


 その水が、マナトの放つ水の光線を吸収した。


 「テッポウウオが……!」

 「おおおお!!!」


 咆哮とともに、水の盾……ウォーターシールドを前に突き出しながら、オルハンはマナトに突進した。

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