566 オルハンVSマナト⑨

 ――バシュッ!!


 「!」


 オルハンの足が止まった。


 マナトの姿が、また消えている。


 「……」


 しかしオルハンの視線は、消えたマナトを探そうとはしなかった。


 ――ザザァ……。


 「これ……」


 右手に持っているそれを、見つめる。


 水の盾、ウォーターシールド。水の斧であるウォーターアックスから形状が変わり、新たに形成されていた。


 円形で、丸みを帯びたその形状……まさに盾そのもの。


 ――ザザザァァァ……。


 しかし、シールドの外側では、頂点となる真ん中を中心にして、水流が渦を巻いている。


 「そうか。この渦で、あの光線を……」


 それは物理的な攻撃を受け流し、また、先のようにマナトの放つ水の光線を吸収する、水塞ぎの盾の役割も果たしていた。


 また、シールド内側のほうは渦はなく、ゼリー状の水で覆われ、まるでクッションのように衝撃を吸収していた。


 「……」


 オルハンはウォーターシールドを、装着するように左手に持ちかえた。


 「これなら……」


 そして、はるか頭上を見上げた。


 ――パァァ……!


 天井から降り注ぐマナのランプの光。


 オルハンの、決意に満ちた顔を照らし出した。


 そして、その茶色い瞳は、近くにあるオベリスク風の石柱の頂上で、水流2つを身に纏いながらたたずむマナトを捉えていた。


 ――ァァ……!


 水流が、マナトの身体を巡る度に幾度となく反射して、星空のようにキラキラと輝く。


 「すご……」


 マナトが目を細くしながら、つぶやく。


 「あの状況で、水塞ぎの盾を模した、水の盾を自ら生成するなんて……天才だ」

 「……」

 「どんどん、水で武装を、……いや、武装というより、この戦いの中で、進化している……!」

 「お前に勝ちたいって思ってたら、出来ちまったよ、マナト」


 ――ジジジジ……!


 オルハンの、空いた右手に水流が通り、ウォーターアックスが姿を現す。


 「……フッ」


 マナトが微笑んだ。


 「右手に伸縮自在の斧、左手に水を吸収する盾とは……さすがに相性が悪すぎる気が……」

 「……」


 ……まだ、戦意を失ってはいねえ。


 その言葉とは裏腹に、マナトのターバン越しに見える真剣な目の輝きは、かえってその強さを増しているように、オルハンには見えた。


 「……」


 無限の勝ち筋が見えている、そんな目をしている。


 だが、


 ……俺にも、見えてんだよ。


 右手。ウォーターアックスを構える。


 「マナト。まず、お前に、逃げられて、上から見下ろされることがないように、しねえとなぁ……」

 「!」


 ――ブゥゥウウン!!


 ウォーターアックスの斬撃。


 ――ガギッッ!!


 石柱の頂点に、伸びたウォーターアックスの水の刃が突き刺さる。


 ――スィィィイイイイ!


 マナトが水流に乗って滑走、ステージの外へ旋回しつつ、回避している。


 「これで……!!」


 が、オルハンはマナトに構うことなく、石柱に突き刺さったその水圧の刃に、さらに力を加えた。


 ――ジジジジジ!!ジィィイイイイ!!!


 「ま、まさか!!」

 「どうだぁぁあああああ!!!!!」


 ――ズァァアアアアアア!!!!!


 一刀両断。ステージ四隅に立つ、オベリスク風の石柱の一本を、オルハンは真っ二つに切り裂いた。


 ――ガタ……。


 その勢いで割れた石柱の根元が折れ、バランスを崩し出した。


 「あっ!!」

 「こっち倒れてくるぞ!!」

 「ヤバい逃げろ!!」


 ――ガッッシャァァアアアン!!!!


 2つになった石柱がそれぞれ、観客席ごと巻き込んで倒れた。

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