379 諜報部隊とムスタファ

 「なにっ!?」


 驚いたのは、黒の集団のほうだった。


 「我々の周りに、もう……!?」


 黒の集団は十数人ほど。しかし、そのうちの半分も、リートやキャラバンの村の面々の動きに対応できていない。


 「さて、どうするっすか?」


 リートが言った。手に火矢を持ち、いつでもござんなれといった表情で、その赤く輝く瞳を、黒の集団へと向けている。


 「おいおい、一対十数人はないだろ~」

 「それなら、僕たちも、加勢するよ……!」


 リートと同じく、ラクトとミトも、腰につけているダガーの柄に、手をかけていた。


 「なんだなんだ?」

 「あの黒いマントは、諜報部隊の……」

 「おいおい、なんか、ヤバそうだぞ……」


 ステージの上での異変に、観衆もざわつく。


 「お、おい!ちょっと待て!」


 黒の集団の一人が、マナトを見て叫んだ。


 「この者、腕から血を流しているぞ!」

 「!」

 「……なるほど、そうだったか」


 フッ……と、黒の集団から、力が抜けていくのが、感じられた。


 戦意が、消えたようだ。


 ――バサッ。


 再び、テントの出入り口の布が、上がった。


 「取り越し苦労……いや、どうやら、そうでもないらしいな、アブド公爵」


 黒の集団とは対照的に、白装束を纏った男が一人、入ってきた。


 「まさか、元ネタとなる人物が、紛れ込んでいようとは」


 背が高く、頭には、黄色いクーフィーヤを被り、碧眼の瞳を持つ、中年の男。


 「しかし、盛り上がっていたキャラバン達の祭典に、水を差したようだ。すまない」


 周りを見渡しながら、碧眼の中年男は、ステージへと上がってくる。そして、同じく武器をおろしたリート達に、柔和な表情を向けた。


 「敵ではない。安心したまえ」

 「少し、遅かったではないか。ムスタファ公爵」


 と、先までムハドと話していたアブド公爵も、ステージに上がってきた。


 「また少し、騒ぎが起こっていたのだ。いま、私の部下と、護衛らとともに、沈めてきたところだ」

 「また、ヤツが、出たということか?」

 「いや、そうではない……!」


 言うと、ムスタファは、目を細め、険しい表情をした。


 「小規模ではあるが……始まっていた」

 「不振による、住民同士の衝突か」

 「そうだ」

 「……なるほど」

 「それを、鎮圧してきた」

 「……厳しいな」

 「ああ」


 ……いったい、なんの話をしているんだ?


 ようやく狙われている感覚がなくなったマナトは、ほっとしつつ、思った。


 「もう、時間が残されていない」

 「そうだな」


 2人の公爵が、うなずき合った。


 と、ムスタファが、マナトへと顔を向けた。アブドもマナトを見ている。


 「少し、話を聞かせていただきたい。我々とともに、来てほしい」

 ムスタファが言った。


 「えっ、僕ですか?」

 「そうだ。……いや、この際、はっきりと言っておこう。我々に、協力してほしい」


 ムスタファの青い瞳が、マナトを写していた。

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