378 オルハン、修羅の扉

 「皆さぁ~ん!」


 司会が、ステージに上がった。


 「2人の戦いはぁ、引き分けとなりまぁ~す!」


 ――えぇ~!?


 周りがざわつく。


 司会はマナトとオルハン、交互に目線を向けた。


 「ステージの上の彼は自らぁ、ダガーで自傷をしてしまいましたぁ~!これはぁ、降参を意味していまぁ~す!またぁ、ステージ下にいる彼もぉ、出血してしまいましたぁ~!」


 語尾を伸ばしながら、司会は言った。


 「いやでも、先に血を流したのは、オルハンのほうだろ?」

 「無名な水使いのあんちゃんの、勝ちじゃねえの?」

 「いやてか、傷口が開いただけだったんだろ?オルハンは」

 「確かに」

 「だよな」


 所々で、勝負に関して、あれこれと意見が飛び交い始めた。


 すると、それを払拭するように、司会が言葉を続けた。


 「いかなる理由であろうと血が流れてしまった以上はダメでぇ~す!!またぁ、その上ぇ~、2人ともステージ外での乱闘のためぇ、此度のサロン対抗戦の規約に反していまぁ~す!!」


 ――あぁ~。


 所々から、納得とも、残念そうともとれる声が漏れ聞こえた。


 「と、いうわけでぇ~」


 司会が、マナトのほうを向いた。


 「そこのお方、お下がりくださ~い」

 「あっ、ハイ」

 「それではぁ、式次第からぁ、それてしまいましたがぁ~、サロン対抗戦を再開いたし……」

 「おい、ちょっと待てよ……!」


 胸を押さえながら、オルハンが言った。


 「おい、てめぇ……!」

 「オルハン、よせ!」

 「ダメよ!これ以上は!」


 フェンとフィオナが、オルハンの前に立つ。


 「傷口からの出血が見えないのか!?」

 「そうよ!早く治療を……」

 「アイツは、ジンじゃなかった……」

 「そう!ジンじゃないんだ!だから、もう、いいだろ!!」

 「そうよ!だから、もう安心して……」


 ……あっ。

 フィオナは察してしまった。


 「ジンじゃねえってことは、てめぇは、マナト、そのもの……!」


 ――ビシッ!


 オルハンが、マナトを指差した。


 「ひっ!?」

 「俺と、マナト……俺たちは、戦わなければ、ならねえんだ!!」

 「いやさっきまで戦ってましたけど!?!?」

 「マナト……俺と、戦え!!」


 ……もうやだ、なんなのあの人……。


 「いやだからさっきまで……」

 「うるせぇ!!これからの戦いは意味合いが違うんだよ!!お前がルナを……!」


 ――バサッ!!


 テントの出入り口の布が、勢いよく開いた。


 黒のマントを統一して纏った者が、素早い動きで次々と入ってくる。


 「あのステージ上にいる男だ!」


 黒いマントの一人が叫ぶ。


 そして、その集団は、あっという間に、ステージの上にいるマナトを取り囲んだ。


 「ちょっと、待つっすよ」


 次の瞬間、マナトを取り囲んだ集団の、さらにその周りを取り囲むように、リートを中心として、ケント、ミト、ラクトなど……キャラバンの村の面々がステージに上がっていた。


 「なんすか?あんたら」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る