613 ミトとラクトとユスフとマナト②
じゃれ合うようにラクトに絡むユスフを見ながら、マナトは思った。
おそらくムハドは、サロン対抗戦でラクトと戦うユスフを見たときに、その生命の扉を見る眼をもって、ユスフが死の商人……キーフォキャラバンであることに気づいたようだった。
……だがそのことを、ムハドさんは、あえて名言はしなかった。
おそらくムハドは、なにか思うことがあるのだろう。自分の中にとどめているようだった。
「……」
……死の商人だからといって、……ということなのだろう。
――コン、コン。
「んっ、は~い」
「こんにちは」
ミトが扉を開くと宿舎の使用人が立っていた。木製のキッチンカートのようなものを引いていて、そこにはナンを中心とした料理が乗せられている。
「こちら、軽食でございます」
「あっ、えっと……」
「大丈夫やで~」
ミトがどう答えたらいいか分からないと見るや、ユスフが口を開いた。
「それ、サービスやねん。この宿泊まっとると、何度か部屋に来てくれるんやで。もろても金はかからへんから、もろときや」
「あぁ、なるほど。それじゃ、いただきます」
ミトは軽食を受け取った。
扉を閉め、軽食をテーブルの上に置きつつ、取り皿とスプーンなどの食器を並べる。
「マナトも、食べようよ」
「うん!」
ちょうど、先ほど起きたマナトは、少し小腹が空いていたところだった。
「へぇ~」
と、ラクトがテーブルの前に立った。
完全につまみ食いする気、満々だ。
「どれどれぇ……」
ラクトがスプーンに手を伸ばした。
――ススス……。
「あ、あれ?」
スプーンが、まるでラクトの手から逃げるように、ひとりでに動いた。
……能力使ってる!
マナトはユスフを見た。
ユスフはラクトの隣に立っていて、指輪のついた自分の指をクイクイと動かしている。
……なるほど、磁場が、あそこから出てるってことなのか……。
「よっと……」
マナトが思っていると、ラクトが身を乗り出して、再びスプーンに手を伸ばした。
――スススス……。
先よりもスピードを増して、スプーンがラクトから逃げる。
「この……!」
――タッ!
ラクトが跳躍した。そのままテーブルの上のスプーンの手前に躍り出て、右手を素早くスプーンへ。
――スッ……!
「むっ!」
スプーンがほんの少しだけ、しかし素早く右にズレる。
「ぬぅぅううう!!」
ラクトが左右交互に手を繰り出す。
――スススス……!
しかしスプーンも細かく動いてラクトの手を避け続ける。
「だぁ~!もうなんなんだよ!!」
「くフフ……」
笑いをこらえるユスフにラクトが怒鳴った。
「おいお前だろユスフ!!能力使ってんじゃねえよ!!」
「あははは!いやなに言うてんねん!お前が自重しろやラクト!それはここの部屋にいる2人のもんやろが!」
……めっちゃ、仲ええやん。
ラクトとユスフのやり取りを見て、しみじみ、マナトは思った。
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