612 ミトとラクトとユスフとマナト①

 「おい!お前のせいでマナト起きちまったじゃねえか!」

 「あはは!なにを言うとんねん。どう考えても、お前らの声のせいやろ」

 「その原因がお前だろ!」

 「あはは!」


 ……あ、あれ?なんで、この部屋に?


 まだ若干、眠気の取れない状態のまま、マナトはラクトと喚き合っているユスフを見た。


 「ゆ、ユスフさん……でしたっけ?」

 マナトは言った。


 「おう」


 ユスフはマナトのほうを向いた。


 済ました濃い紫の瞳が、マナトを見据える。


 磁性を自在に操る能力を有する、ギルタブリル地方のマナを取り込んだ能力者であり、巨木エリアでミトと戦い、サロン対抗戦のエキシビションでラクトと激しい戦いを繰り広げたその人が、いま、目の前にいる。


 ……なんか、いまはあんまり、闘争心を感じないな。


 見る度に好戦的な印象をユスフに持っていたが、いまは、感じない。


 いやむしろ、フレンドリーな空気感すら漂っているように、マナトには感じられた。


 「いま、そこのな……、」

 「えっ?」


 と、ユスフがラクトを指差した。


 「そこのヤンキーと、」

 「誰がヤンキーだ!」


 次に、ミトを指差した。


 「そこのひょろいヤツが、」

 「ぼ、僕のこと言ってる?」

 「2人してアンタが寝ながら握ってた手紙を盗み見してたのを、その後ろから盗み見てたんや」

 「手紙?……あっ」


 マナトは気づいた。


 そしてユスフがラクトの後ろを指差した。


 「ほら、そいつがいまそこに隠し持って……」

 「あーーーお前!!ばらしてんじゃねえよ!!」

 「いやもう遅いやろ。観念せえよ」

 「ワンチャンマナトが忘れてる可能性もあったのに!!」

 「いやお前のほうがタチ悪いな!やっぱりヤンキーやんけ!」


 ラクトとユスフがまた言い合いを始めた。


 ……な、なんか、部屋がにぎやかに。


 そして、ミトはただ、あちゃ~という顔をして、頭に手を当てている。


 「ま、まあまあ、2人とも……」


 マナトは2人をなだめつつ、言った。


 「ぜんぜん、見られてよかったというか、手紙の内容はむしろ、周知してもらうつもりだったし」

 「えっ?」

 「ジンに関すること、書いてあったでしょ?」

 「うん」


 マナトはもともと、先の手紙に関しては、早めにムハドをはじめ、皆に知らせるつもりだったことを言った。


 「なるほどね」


 ミトが言った。


 「たしかに、変に隠すより、知っていることはぜんぶ言ったほうがいいって、ことだよね」

 「うん、そうだね」

 「うんうん、せやな」

 「てかなんでお前ここにいるんだよ!」


 マナトと一緒に腕を組んでうなずくユスフに、すかさずラクトがツッコんだ。


 「いやいや、俺らのほうが先に泊まってたんやで」


 ユスフは肩をすくめながら言った。


 「あっ、そうだったんだ」

 「いや~、それにしても、ひっさびさに負けたわ~」


 そう言い、ユスフは空いているイスに座った。


 「あれ?てかすまん、お前ら名前なんやったっけ?」

 「ラクトだ!」

 「ミトだよ」

 「いや~、お前ら強いなぁ~」

 「てか、さっさと自分の部屋に戻れよ!」

 「別にええや~ん。減るもんやなし~」


 ラクトが言葉でつっかかるが、ユスフはゆるゆると受け流す。


 どうやらユスフは、ここにいたいみたいだ。


 《闇の世界でいきる人間ということだ》


 ムハドの言葉を思い出す。


 ……闇の世界、か。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る