611 ミトとラクトの会話に紛れる声

 「そうみたいだね。……実際、マナト自身、ずっと、いつジンとすれ違ったんだろうって、折あるごとに考えてるんだよね」

 「そういえば、ミト、ずっとマナトと一緒にいたよな?」

 「うん」

 「なんか、この国に入ってから、すれ違ったヤツで怪しいヤツとか、いなかったのか?」

 「……」


 ミトは腕を組んで、目を閉じた。


 「……分かんない」


 しかし、やがて目を開けて、首を振って言った。


 「というか、このメロ共和国に入る前に、すれ違っているハズなんだ」

 「あっ、そっか」

 「うん。だけど、マナトが言ってたんだけど、」


 ミトは眠るマナトを見つめ、語を次いだ。


 「僕らと違って、マナトはこのヤスリブの世界に来て日が浅いから」

 「!」

 「これまでの交易で、すれ違っているのは間違いないって……!」

 「た、たしかに……!」

 「そうやったんか、なるほどなぁ」

 「……ぅぅ」


 寝台でうつぶせに寝るマナトが、またピクリと動いた。


 「……」

 「……」


 ミトとラクトは一瞬で無言……どころか、息すらも止めて、マナトを見守った。


 「……」


 しかし、マナトはゴソゴソと、ちょっと横向きになるのみで、す~す~……と、再び気持ちよく寝息を立て始めた。


 「そ、そろそろ戻したほうが……!」

 「いやでもまだ途中までしか……!」

 「せやせや、アイツまだぐっすり寝とるやんけ」

 「だろ?下のほうにまだ大事なことが書いてるかもしれない」

 「そ、そりゃそうだけど……」

 「ええやんけ、ええやんけ。続きどんなん?気になるやん」

 「よし……」


   ※   ※   ※   ※   ※   ※


   どうか、十分、注意してください。


   ジンに関して、なにかの文献で読んだことがあるんです。

 

   ジンは、化けた者の前に、必ず現れるって……、


   ※   ※   ※   ※   ※   ※


 「いやてか誰!?」

 「うわっ!?」


 ラクトとミトは驚いて、後ろを向いた。


 「あっ!お前!」


 商人騎士風の、黒地長袖の白ラインの装束。腰には緑に光る布ベルト。


 黒色の、パーマ風の巻き毛に、濃い紫色の瞳。目尻の垂れた少し離れ気味の両目。


 少し大きめな口が、親しみを込めた笑みを含んでいる。


 「えっと……俺に負けたヤツ!」

 「やかましい!ユスフや!」


 ユスフがラクトにツッコんだ。


 「い、いつの間に……」

 「いやお前らが話し込んでる間に、フツーに扉開けて入ってきたんやけど」

 「いや、勝手に入ってくんなよ!」

 「まま、別にええやんけ。寝込み襲うワケやなし」


 ユスフは言うと、寝台を指さした。


 「それよりええんか?お前さんらが大声出すから、やっこさん、起きてもうてるで」

 「え」

 「あ」


 寝台の上で、マナトが上半身だけ起きて、寝ぐせのある黒髪をかきながら、眠そうな目で3人を見ていた。


 「えっと……ミトと、ラクトと、……あ、あれ?ユスフ……さん、だっけ……?」

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