614 ミトとラクトとユスフとマナト③

 「そういや、あんた……」


 ――スッ。


 磁力で動き回っていたスプーンが止まった。そのスプーンにラクトが飛びついている。


 ユスフは、マナトに視線を向けていた。


 「あんた、あれやろ?サロン対抗戦の決勝の一戦目で、水を操る能力の、派手な服着た、その上戦闘中に公開告白しとったヤツと戦って勝った、ターバン野郎やろ?」

 「あぁ、えっと、はい」

 「うん、やっぱそうやんな。ターバン被ってたから、顔分からんかったけど、そうやろな思てなぁ」


 ユスフが一歩、前に出た。


 「一応、ここにおる2人とは、やり合ったからなぁ……!」


 ……んっ?なんか、様子が……?


 ユスフがニヤつきながら、マナトに好奇の視線を向けている。


 「あと、戦ってへんの、あんただけなんよなぁ」

 「えっ」

 「おっ!マジで?」


 ユスフの奥で、テーブルの上の軽食をつまみ食いをラクトが振り向いた。


 「やる?」

 「せやなぁ」

 「いやせやなぁじゃなくて!あと、ラクトも、やる?じゃなくて!やらないやらない!」


 マナトは慌てて否定した。


 「あはは……マナトはあんまり、戦ったりするのは好きじゃないからなぁ」


 ミトが苦笑しながら言葉を次いだ。


 「そもそもは、マナト、平和な世界にいたんだもんね」

 「あっ?でもサロン対抗戦の決勝戦で、思いっきり戦っとったやんけ」

 「い、いやあれは……えっと、あの時は、ちょっと高揚していたというかなんというか、不思議に戦いたくなったというか……!」


 たしかにあの時は、自分でも不思議だったとしか、言いようがなかった。


 やはり、あのような環境、また空気感が、自分の闘争本能を刺激していたのだろう。


 しかしその興奮も冷め、今は、これまでと同じように、好んで戦いたいなどという気持ちは、ない。


 「ええやん、減るもんやなし!」


 ユスフがさらに一歩、マナトへと迫り来る。


 ……あかん!やる気になってはるんですけども!?


 ユスフの顔は、いつでもかかってこい的な顔になっている。


 ……こ、これは、話題の転換を……!


 「そ、そうだ!ほら、手紙!ルナさんからの、手紙の返書を書かないとだから!ラクト!手紙返して!」

 「あっ、お、おう……!」


 ラクトに手紙を返してもらい、軽食の置いているテーブルの、空いている端のほうのところのイスに腰かけ、マナトは忙しくしてる風な体裁ていさいをとる。


 「そういや、手紙で思い出したんやけど、」


 ユスフが口を開いた。


 ……よし、戦いとは別の話題だ。


 「お前なんよな、ジンに化けられとるヤツて。そこの手紙に、書いとったし」

 「おい!勝手に人の手紙を、読んでんじゃねえよ!」


 ラクトがユスフにツッコみを入れる。


 「いやいや、それはお前らの失態やろがい。お前らが手紙読んでコソコソしゃべってる話、聞いとっただけやで」

 「うぐぐ……!」

 「まあええやんけ。どのみち近いうちに俺は知ることになっとったんやから。ほんで?」


 ユスフはマナトに返答を促した。


 「結局、思い出したんか?いつ、どこで、ジンと接触したかどうかを」

 「……いえ、まったく、心当たりがないですね」

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