615 ミトとラクトとユスフとマナト④

 「お前さん、ヤスリブに来て日が浅いんやろ?」

 「そうですね……ふぁ!?」

 「そこの2人が、お前さんが寝とる間に、そんな話をしてたんや」


 マナトが見ると、ミトもラクトも苦笑しながら、頭をかいている。


 「あ、あはは……まあ、そうなんですよ」

 「そこはまあ、とりあえず、ええんよ」

 「あっ、そ、そうですか」


 ……まあ、そんなに興味ないよね、正直なところ。向こうの世界とかどうとか。


 それに、基本的に自分の言ってることを本気にする人なんて、基本的にいないよな……と、今さらながら、マナトは思った。


 「要するに、ここまで交易したヤツらの中にいるんじゃないかって、話やろ?」

 「はい。……ただ、そうなんですけど、そうは言っても、あからさまに『この人、怪しい』とか、そういう人なんて、いないよなぁって、改めて思っただけというか……」


 実際、人間に化けているジンを見極めるのは、困難を極める。


 というか、ほぼ不可能だ。


 やはり、ジン=マリードのとき、また、ジン=ジャンのときのように、決定的な瞬間を目撃しない限りは、人間としてどうしても見てしまっていた。


 「なんやじぶん、使えんのぉ~」


 マナトの言葉を聞くと、ユスフはつまらなそうに両手をあげた。


 「あはは……あっ、そうだ」


 マナトは言うと、持っている手紙に一瞬目をやり、その後ミト、ラクト、ユスフの3人に視線を注いだ。


 「この手紙、読んだって、ことだよね?」

 「お、おう、途中までだけど」

 「ごめんね、マナト」

 「いや、ぜんぜん大丈夫だよ。……僕もちょっといただこうかな」


 ラクトとミトに微笑むと、マナトはテーブルに置いてある軽食のナンに手を伸ばして、ソースをつけてほおばった。


 「ジン、ルナさんの前にも、現れたんだね」


 ミトが安堵の表情で言った。


 「でも、さらわれなくて本当によかった……!」

 「いや、まだ油断はできへんで、ミトはん」

 「えっ?」


 ミトがユスフを見た。


 「ギルタブリル地方でよく言われとることやけどな。ジンって、ある特定の人間を標的にしたとき、まるで呪いのように、その相手にだけ、しょっちゅう姿を現してくるそうやねん」

 「呪いのように……」

 「せやな」


 そしてユスフはマナトの持っている手紙を指さした。


 「やから、またその手紙の送り主の前に現れる可能性が高いんや」

 「……」

 「まあ、その手紙の感じ、そいつは一度しか会ってないみたいやけどな」

 「ムグムグ……そういう性質も、あるんですね」


 無言になったミトの代わりに、ナンをほおばっていたマナトが口を開いた。


 「ギルタブリル地方でも、いろいろジンについて調べておられるんですね」

 「いや、そうでもないで」

 「えっ?」

 「ウーム―地方の書簡を、この国に来て見せてもらったんや。あんなのは、俺の地方にはあらへんよ」

 「なるほど……ムグ」


 ……ジンについての情報は、それぞれの国で、知ってることとそうでないことがそれぞれって、状況なのか。


 ユスフと会話しながら、マナトは思った。


 ……そういえば、ジン=グールに、僕のものになってとか、言われたっけ。


 「……ほな、まあ、つまるところその手紙で分かることは……、」


 ユスフは部屋の窓のほうへと歩きながら、会話を結ぶようなかたちで、言った。


 「その手紙書いたルナってヤツ、お前さんのことが好きってことくらいやな」

 「ングッ!」

 「……んっ?なんや?」

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