616 窓の外に見える者たち

 ユスフが窓の外を指差したまま、振り向いて言った。


 「なんか、おるで」

 「?」


 マナトは立ち上がって、窓のほうへ。


 外を見る。


 いま、マナト達が泊まっている部屋は2階で、巨木の枝葉がうっそうと生い茂る高さの、ギリギリ下に位置していた。


 巨木の太い幹が所々で視界を遮りはするものの、そこそこ遠くまで見ることができた。


 「……あっ!」


 巨木と巨木の間を、一人の男が走っている。


 マナトはその男に見覚えがあった。


 「彼は、あの時の……!」


 サロン対抗戦決勝トーナメントの前夜、危険な酒遊びをして、中央広場の建物の2階のベランダから落ちそうになったところを、マナトが水の能力で助けた人物だ。


 ……たしか、ガストと、仲間たちに呼ばれていたっけ。


 「なんや、自分、知り合いかいな」

 「いや、知り合いというわけでは……僕のほうが一方的に知ってるだけというか」

 「なんやそれ」


 しかし、ガストの姿は巨木で見えなくなった。


 「隠れてもうたな」

 「ですね」


 と、同時に護衛数人が駆けて来た。


 「追われてるんだ……」

 「おうおう、追っ手やんけ!さしずめ、あのガキ、なんか悪さでもしてもうて、追われる身ってとこちゃうか?」

 「い、いやガキって……」


 さらに見ていると、


 「護衛たちが2手に分かれたな」

 「ですね」

 「それぞれ別方向の、巨木の向こう側へと消えていった」

 「あぁ、さっきの彼も、護衛たちも、見えなくなっちゃいましたね」

 「いや、またそのうち出てくるんとちゃうか?見とったら」

 「ですかね」

 「おい」

 「どうしたの?」


 話していると、ラクトとミトもやって来て、窓の外を見た。


 「なんか、男が護衛に追われとってな」


 ユスフがマナトを指さして言った。


 「そったら、コイツの知っとるヤツやったっていうオチや」

 「へぇ」

 「そうだったのか」

 「……あっ、接点あるんやったら、意外とアイツ、ジンやったりせえへんの?」

 「えっ?そ、それはどうなんだろ……?」


 ユスフに言われ、マナトは一瞬考えたが、首を横に振った。


 「たぶん、違うと思う。接点って言っても、大通りに面している建物の2階から落ちそうになってるのを、助けただけで、ほんと、たまたまその場に居合わせただけで、偶然だっただけという感じだから」

 「あぁ、せやったら、ちゃうか」

 「……あっ、なんか見えるよ~」


 外を眺めていたミトが、指さした。


 巨木の太い幹から、ガストが姿を現す。前後左右に気をつけている様子だ。


 「……おっ?」


 と、ともに、もう一人、出てきた。


 清掃をする際に着用する作業服姿をしている、背はガストと比較して、幾分か低めの男。


 「おぉ、サライの元従業員さんだ!」

 「だね~」


 そのサライの元従業員の男はガストと知り合いのようで、ガストとなにやら会話を続けつつも、駆け足でその場を離れてゆく。


 巨木の影に、2人が消えた。


 「……いや、ちょっと待って!」

 「!?」


 ミトが叫んで、マナトも、他の2人も驚いてミトを見た。


 「マナト……!」


 ミトが言った。その表情は一変して、真剣なものに……険しいものに変わっていた。


 「あのサライの元従業員……!」

 「!!」


 ミトが皆まで言わなくとも、マナトもミトの言わんとしていることを察した。


 ……まさか!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る