617 マナトの記憶と憂鬱/ジンの、本当の怖さ
《お、覚えててくれたのですか……!》
……そ、そんな。あの、元サライの従業員の、彼が……。
《寝る以外はなにがしかで動いてるし、寝ていたとしても……》
自然、あのサロン対抗戦、決勝トーナメントでの、トイレでの再開時の会話を思い出していた。
《さっき、実は清掃の関係でテント内に入ってて、マナトさんの戦う姿、見ていました》
「……」
《また強くなられたみたいで……勝利、おめでとうございます》
「マナト!」
ラクトが呼んだ。ミトは部屋の扉を開けていた。
「う、うん!とりあえず、ムハドさんのとこに行こう!」
言うと、マナトも部屋を出た。
《また強くなられたみたいで……》
「また強く……また……」
……いつ。どこで。
※ ※ ※
ムハドは宿の1階の、テーブルとイスが複数置かれている、宿に泊まっている者なら誰でも利用できるラウンジのような場所で、ジェラードとなにやら打ち合わせしていた。
「……そうか」
マナトの報告を、ムハドは幾分か落ち着いた様子で受け止めている様子だった。
「う~ん……」
「さて、どうするかねぇ?」
ジェラードが口を開いた。
「このメロの国の護衛隊や諜報部隊が死力を尽くして追跡しても、見つかっていない状況だ。まあ、大きな国であればあるほど、ジンをあぶり出すのは、難しくなるものなんだよねぇ。それに、そのマナトの言う元サライの従業員がジンであるということも、なんともいえないからねぇ」
「……」
「ただ、もしその男がジンだとしたら、このままだと、そのガストってヤツの身が危ない」
ムハドの言葉に、ミトもラクトも、うんうんとうなずく。
「やみくもに人を疑うよりも、いくらか可能性がある以上、追跡する価値は十分んにあるが……」
「……」
「……マナト、憂鬱なようだな」
「あ……」
ムハドが、マナトを見ながら言った。その濃い茶色の瞳には、まるで鏡のように、マナトの表情が映し出されていた。
「はい……」
「これが、ジンの本当の怖さでもある」
「本当の、怖さ……」
「人と人の間に、不信や疑心を植え付けてしまうからな。いま、この国は、その渦に飲み込まれようとしている」
「……この世界で知り合った人に再会できて、嬉しかったんです」
「そうか……」
「……ですが、」
マナトは、言った。
「可能性は、高いと思います……!」
「……よし!」
するとムハドは、ジェラードのほうを見た。
「この国に先行していたジェラードのほうが、いまのこの国の土地勘があるだろう」
「了解」
「俺はセラとリートの2人とともに、ムスタファ公爵のもとへ報告に行ってくる」
「分かりました!」
マナト達にジェラードを加え、一行はすぐに宿を飛び出した。
「その元サライの従業員の男、どっちに向かったか分かるかい?」
「あっちです!」
「とりあえずそっち行ってみるかねぇ」
「そこの巨木を横に曲がっとったで!」
「いやてかなんでお前まで一緒について来てんだよ!」
当たり前のように一行に加わって横で走っているユスフに向かって、ラクトが叫んだ。
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