618 巨木エリアにて

 宿の2階から見えていた、ガストと元サライの従業員が消えていったところへ。


 「宿から見えていたのは、ここのあたりまでですね」


 マナトはジェラードに言った。


 「ふむ……」

 「アイツらは……!」

 「どこに……!」


 あたりを見回す。


 周りはそれこそまさに巨木エリアそのもので、無数の葉っぱの緑の背景に、茶色く太い幹の柱が模様のように立ち並んでいる。


 「あっ、あれは!」

 「!」


 ミトが声をあげた。


 「あっちの巨木の後ろから、人影が!」

 「そ、そっちか!」

 「……あっ、ごめん、護衛の人たちだった。……あっ!向こうに!」

 「あっちだな!」

 「……違った、護衛の人たちだ」

 「くそっ、護衛ばっかだな……!」


 ところどころ、護衛の者たちが巨木から顔を出すが、2人の姿は、見当たらない。


 それでも、ミトもラクトも、しきりとあたりを見渡して必死に探している。


 「あかん、見失ってもうたな」


 ユスフは言うと、ミトとラクトと同じようにキョロキョロしていたマナトのほうに近づいてきた。


 「なぁ、なぁ」

 「えっ?」

 「さっき宿の1階におった、ムハドってあんちゃん、なんなん?」

 「えっ?いや、なんなんって……」

 「なんか目線合わせたときとか、もぅ……」

 「ほぅ、ムハドのことが気になるのかい?」

 「ぉおん!?」


 ユスフとマナトの間に、ジェラードが首を突っ込んできた。


 「そ、そうやねん」


 一瞬、ジェラードの顔の近さに少し引いたが、ユスフはすぐに開き直って言葉を次いだ。


 「あのあんちゃんだけ、明らかに、オーラが違うやん」

 「ふむ」

 「目線合わせたときなんか、もう、すべて見抜かれてもうたような気がしてん」

 「ほぅ……」


 ……鋭いなぁ。

 ユスフを見ながら、マナトは思った。


 「これでもムハドとは、俺はそこそこ長い付き合いなんでねぇ」


 ジェラードはにこやかに言った。


 「彼は、ムハドは、確かに特別だが、それでも人間としては、普通の人間だよ」

 「普通の人間……」

 「そうだ。たしかに多少、他の人間よりも人心掌握に優れているが、それが彼のまとうオーラの理由では、ないということだねぇ」

 「……?」


 ユスフはちょっと、頭の上にハテナマークが浮かんでいるようだった。


 「……」


 そしてマナトも、ジェラードの言葉の意味をはかりかねていた。


 「彼のまとっているオーラは、君もまとうことができるオーラだ」

 「そ、それは、どないなもんですか?」


 ……敬語になっとる。


 だがマナトも、少し気になっていた。


 「それは、とにかく背負う覚悟、それだけだ」

 「……それだけって、いや、ちょま……」

 「ちょ、ちょっとマナト!ユスフ!ジェラードさん!探して探して!」


 ラクトが立ち話している3人に慌てた表情で言った。


 「おっと、そうだったねぇ」


 ジェラードは会話を打ち切った。


 「マナト、そのサライの元従業員とは、どこで出会ったんだっけ?」

 「あっ、はい。サロン対抗戦のときの、巨大テントの近くに設けられた仮説トイレの中です」

 「なるほどねぇ……」

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