619 ジェラードの言葉
ジェラードは腕を組みながら、改まった様子で巨木エリアをゆっくりと見回した。
時折、点在する巨木の後ろから巡回している護衛たちが通り過ぎる。また、護衛の他にも、馬車がガラガラと音を立てながら走っているのが見えた。
「……」
しかしジェラードは、彼らに声をかけることはせず、その通り過ぎる姿を、ただ眺めていた。
「じぇ、ジェラードさん……!」
我慢しきれなくなったミトが言うと、ラクトも続けて言った。
「は、はやく動かないと、どんどん離れて……!」
「まあまあ、慌てるな」
そんな2人に、ジェラードは顔を向け、微笑んだ。
「ミト、ラクト、あまり土地勘のないところで動き回っても見つけるのは難しいだろう。それにメロの国はクルール地方でアクス王国に次ぐ大国だ。キャラバンの村くらいの人口なら追いかければなんとかなるが、ここまで大国だと人混みに紛れた時点で見つけることは不可能だ」
「……」
「で、でも……!」
ミトが言いかけたのを、ジェラードが手をあげて制した。
「気持ちは分かる。その一緒にいるという少年が心配なのだろう」
「……」
ジェラードに言われ、ミトが黙ったまま、うなずいた。
……あぁ、そうか。ミト、自分とあのガストって少年を重ねて……。
日頃、あまり意識しなくなっていることに、マナトは気づいた。ミトは、幼い頃にジンにさらわれているのだ。そうして、キャラバンの村にやって来たのだ。
いま、そのガストという子が、もしかすると、そうなってしまうかもしれない……そう思うと、ミトはいてもたってもいられないのだ。
「だが、緊急事態だからこそ、焦りは禁物なんだよねぇ」
ジェラードが言葉を次いでゆく。
「ジンの本質は、それに直面したときの、人間側の恐怖から来る混乱なんだよねぇ。ジンによる直接的な被害もある。だが、それ以上に人間同士の自滅による二次被害ほうが、はるかに大きな場合があるんだよねぇ」
「……」
「大丈夫だ。もしその清掃員がジンであるならば、これまでの経緯を考える限り、その姿でなにかしようとする意思はないとみえる。ムハドが言っていたところの、『つなぎの姿』ということだ」
「……」
「そういう意味で、ガストという少年の安全の可能性は高い……そう、思わないか?」
「……」
ミトは無言のまま、ジェラードに小さくうなずいた。
……やっぱり、頼りになるなぁ。
マナトは思った。
やはり、交易での経験が豊富なのを物語っていた。
「……ただ、君らの言うとおり、ここで突っ立っているわけにもいかないからねぇ」
やがて、ジェラードは歩き出した。
「とりあえず、ミトとマナトが前に遭遇したっていう、キャラバンサロン大会が行われた巨大テントの近くのほうに向かうことにしようかねぇ」
「は、はい!」
「了解です!」
「だが、そこでもしいなかったら、宿に……」
「……?」
「……じぇ、ジェラードさん?」
ジェラードは止まっていた。
そして、横を向いて、ある一点を凝視していた。
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