425 ウテナ⑧/乗客
馬車の布が上がる。
「どうも、どうも、はじめまして」
30歳を越えたくらいであろう大人の男が立っていて、ウテナとラクトに挨拶した。
ベージュの肩掛けの下には、使い古した感のある錆びのついた鉄の防具をつけて、頭には、ベージュのターバンを高めに被っている。
その男と手を繋いでいる、こちらは、10歳に届くか届かないかくらいの、女の子。
女の子は、ツインテールの赤茶色の髪の毛に、首筋から足元まで、白地に細かい植物の模様が鮮やかに描かれている装束を身に纏っていた。
「……」
無言で、ちょっと、むすっとしていて、下を向いている。
「どうもっす。……よっと」
ラクトは長椅子からピョンっと立ち上がった。
ウテナも察して、長椅子の座っている位置を、少し横に移動した。ラクトが、そこに座った。
「すみません、ありがとうございます」
男はウテナとラクトに、笑顔で感謝した。
そして、ラクトが座っていた席に、新たな2人の乗客は腰を下ろした。
――ガラガラガラ……。
……また、砂漠の真ん中に、人が……?
先のラクトと同じだと、ウテナは目の前に座った2人を見ながら思った。
「……」
女の子は長椅子に座ってからも、終始、無言で、下を向いている。
「すみません、ここ最近、人見知りが激しいもので……」
男が、女の子の頭を撫でながら、苦笑混じりに言った。
「ぜんぜん、いいっすよ」
「親子ですか?」
「あはは、兄妹ですよ。ちょっと、離れておりますが」
男のほうは、人当たりがよく、物腰柔らかで、話しやすい。
「どこまで行くんすか?」
ラクトが男に聞いた。
「とりあえず、この子の母のところまでですね」
「この子の母……?」
ウテナはついつい、聞いてしまった。
「あぁ……この子とは、腹違いなんです」
「あぁ……なんか、ごめんなさい」
「いえいえ、私のほうこそ。気をつかわせてしまいましたね」
「ねぇ~」
すると女の子がかわいらしい声を出して、同時に、男の肩掛けを引っ張った。
「お母さんは~?まだ~?」
「あぁ、心配しなくても、もうすぐ会えるよ」
男がにこやかに言った。
「その防具……」
ラクトが、女の子の引っ張っている肩掛けの下の、男の纏っている錆びのついた防具を見ながら、神妙な面持ちで、問いかけた。
「……もしかして、戦をしてたんすか?」
「……はい」
男は少しうつむきつつ、話し始めた。
「ムシュマの地で、ジンと、戦っていました」
「!」
「私の国は小国でしたが、呼び掛けに応じてくれた大国と連合を組んで、ジンを砂漠へと追いやることに成功し、もう少しで、撃退できるんじゃないかというところまで、追い詰めていたんです。ですが……」
「……どうしたんですか?」
「我々の連合軍とはまったく別の、我々の知らない謎の集団が現れて、ジンに、なにかを見せたんです。その時、ジンの様子が、一変しました」
「様子が、一変……」
すると男は厳しい表情に変わり、悔しさを滲ませた。
「そこで、私たちは、ジンの、真の姿を見ました……」
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