389 完成した十の生命の扉の彫刻
茶色の、どちらかといえば粗悪な石で造られた壁に、木の大きな扉には、金属の南京錠がついている。
十人程度なら、余裕で中に入れるほどの大きさの貸し倉庫だ。
シュミットが、懐から鍵を取り出した。
「開けます」
――ギィィ……。
扉は開かれ、シュミットが中へ。
続いて、他のみんなも続々と中に入った。
「真っ暗だ」
「扉を閉めれば、灯りがつきますよ」
「うぃ~っす」
最後に入ってきたリートが、扉を閉めた。
一瞬、暗闇。
――ボゥ……。
倉庫内、壁に立て掛けてある複数のマナのランプが、それぞれ、独りでに灯った。
「おぉ……!」
「これが……!」
明るくなった瞬間に、その彫刻が皆の目の前に現れた。
……ぜんぜん、前に見たものと、違ってるんですが。
マナトは思った。
「か、輝いてる……」
ミトがつぶやいた。
前に岩石の村の、シュミットの家の外で見た白石の彫刻と違い、大理石でつくられたその彫刻は磨きに磨かれ、マナのランプの光を反射するほどに綺麗な光沢を放っている。
彫刻の大きさに関しては、前と同じ、マナトと同じくらいの高さ。
そして、魔法陣のような、幾何学的な模様が掘られている床に、向かい合う、アーチ状の6つの扉。
ここまでは、前と一緒なのだが……、
その床の真ん中……向かい合う6つの扉の中央に、一人の女性の立ち姿が
「シュミットさん。この、6つの向かい合う扉の中心にいる女性って……?」
「はい」
マナトの問いに、シュミットは、笑顔で答えた。
「原初の母……ティアです」
「これが……」
マナト、また、他の者達も、女性を凝視した。
服は着ておらず、裸で、髪は長くしなやか。その髪で、自然と隠れるべきところは隠されているかたちになっている。
やや細身の、妖艶な曲線を描く身体は、女性特有の魅力で溢れ、右足が少し前に出て、左足は、くの字に曲がり、自然に下ろされている左手に、右手は頭の後ろに回って、自らの髪をかき上げるようなポーズをしていた。
まるで、どこからか訪れ、そこに降り立ったような、そんな風にも見える。
少しうつむいている美しく整った顔。目は閉じられているように見えるが、下から除くと開いていて、彫刻特有の白い目が、虚構を見つめている。口は角度のせいか、少し微笑んでいるように見えた。
「……これが、シュミットさんのたどり着いた、答え、ということかな?」
ムハドが笑顔で言った。
「そうですね」
「6つの生命の扉に、ティアが、舞い降りる、と」
「はい」
シュミットはうなずいた。
「製作段階で、自明になっている6つの扉が向かい合うのに対し、未知の4つの扉が、ただ階段を上ってゆくというものが、私自身、つくってはいたものの、どこか、違う気がしてならなかったんです」
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