390 シュミットとムハドの会話

 するとシュミットは、ミト、ラクト、マナトの3人を、それぞれ見た。


 「……えっ?」


 3人とも、キョトンとして、シュミットを見つめ返した。


 「そんな、ある意味、煮詰まっていた時に……彼らが現れたのです」

 「へぇ」


 シュミットが言うと、ムハドも興味深そうに、3人を見た。


 「彼らの、ひたむきな姿勢で、自由に製作に打ち込む姿に、心打たれましてね」

 「あぁ、あの時かぁ……あはは……」

 「あの……3人とも、酷かった作品っすか……」


 ミトとラクトが苦笑した。


 「いやぁ……僕らにとっては、もはや、あれ黒歴史なんですけど……」


 マナトが自重気味に言った。


 「……あっ」


 サーシャが、なにか気がついたような表情で、シュミットに言った。


 「あの、シュミットのアトリエに飾ってあった……」

 「あっ、そうですよ、サーシャさま!あの、スナネコと、石ころと、女の子の!」

 「……ク……フフッ」


 思い出してしまったのか、サーシャが微かに笑っている。


 「そこで、気づかされたのですよ。私は、アクス王国より取り寄せた文献に載っていた十の生命の扉に囚われ、その通りにつくろうとし過ぎてしまっていた」

 「なるほど」


 ムハドはうなずいた。


 シュミットの指差す先、6つの扉のうちの一つから、7つ目以降の扉へと続く階段が続いていた。


 その扉には、前の作品の時にもあった、小さな天使の像。アーチの上にちょこんと腰掛け、笑顔でティアを見上げている。


 ただ、前にマナトが見たのとは違い、その扉は、らせん階段となっていた。


 原初の母、ティアの立ち姿の像は取り囲む生命の扉よりもはるかに大きく象られていて、ティアを取り囲むようにらせん階段が続き、その途中に、7つ、8つ、9つと、未知の扉が続く。


 そして、ティアの正面、胸元あたりの高さまでらせん階段が達したとき、最後の、10番目の生命の扉が待ち構えている。


 「彼らのお陰で、自身の創作の壁を、打ち破ることができた。……ムハドさん、」


 彫刻を見ながら、シュミットが言った。


 「あなたが十の生命の扉のうち、6つの扉が見えると聞いたとき、ぜひともこの作品を、あなたに見てもらいたいと思いました」

 「いやいや、恐縮ですよ、シュミットさん」


 ムハドは彫刻に視線を注いだまま、笑顔で言った。


 「俺がなにか言うのも余計なくらい、素晴らしい出来ではないでしょうか」

 「ありがとうございます」

 「しかし、大胆に改変しましたね」

 「はい」


 ……この彫刻を依頼した人、どんな人なんだろう?

 シュミットとムハドの会話を聞きながら、マナトはなんとなく、考えていた。


 「……ちなみに、7つ目の扉へと続く扉は、6つある生命の扉のうち、どれだと思いますか?」

 「……」


 シュミットに問われたムハドは、膝を折ってしゃがむと、6つの生命の扉の、天使の腰かけている扉を見つめた。

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