464 ミトと無法者の男の会話

 「や、やった!」

 思わず、マナトはガッツポーズした。


 「おぉ!ミトくんやったっすね!」

 「ナイスだぜ!ミト!」

 リートとケントも声をかけている。


 「……なるほどなぁ」


 無法者の男が、自らの右手の、ほんの少し出血した指をまじまじと見つめた。


 「かすり傷とはいえ、ひっさしぶりに、傷つけられたわ」


 そして、ミトに向かって言った。


 「あんたの、さっきのダガーの素振り……俺の能力の及ぶ範囲を測っていたって、ことか……」

 「はい」


 ミトが答える。


 「僕は、あなたの能力がなんなのか、正直、今も、分かってはいません」


 言いながら、ミトはもう、腰につけている鞘に、ダガーを戻している。


 「ですが、護衛たちとあなたの戦いを見ていて思ったのは、あなたの有している能力は、その発動範囲が限定的ではないかということでした」

 「……」

 「あなたの中心部というか、胴体に近ければ近いほど、強くはたらいて、逆に胴体から離れると、力が弱まっていくように、僕には見えた」


 ……たしかに。


 護衛たちのボウガンの攻撃のときが、それが一番顕著に出ていたと、マナトは思った。


 また、今思えば、ミト自身も、それを確認するかのような攻撃が、いくつかあった。


 「最初の、ダガーで振り上げる一閃も、力のはたらき具合を地肌で感じてたんか」


 男の言葉にミトがうなずく。


 「そうですね」

 「それで、殴るときに一番身体から離れる、右の拳を狙ったって、ことか」

 「はい」

 「あんた天才やな……うん、すごいわ。非常にいい線いっとるよ、あんた。だが!」


 男が構え直した。


 戦闘体制に入っている。


 「今の一撃で、俺の右を機能不能にするぐらいの深手を負わせられなかったのは、残念やったな」

 「あっ!いやいや、もう、いいんですよ!落ち着いて!」


 ミトが慌てて、男をなだめる。


 「僕らの目的は、あなたがジンでないことの証明だけなんです」


 そして、言った。


 「いま、指から血を流しましたよね。それが確認できただけで、僕らはもう、目的達成なので」

 「なんやと?」

 「だから、これ以上戦う意味はないというか、戦わなくていいということです」

 「……」

 「傷も、小さなものというか、最小限にしているでしょう?」

 「……えっ、じゃあ、もしかして、」


 男が目を丸くした。


 「あんた、それこそ、俺の指の先っちょを、あえて……?」

 「はい、狙いました。そのほうが能力の作用も限りなくかからないと思ったのもありますし。まあ、かなりギリギリでしたけど、あはは」


 ミトが、爽やかに微笑む。


 「うわー!またー!」

 リートが喚く。


 「ミトめ……どれだけ笑顔を振りまけば……!」

 ケントも恨めしそうに目を細める。


 「う、ウソやろ?」


 にわかに信じられないといった表情を、男はしている。


 その時だった。


 「お前なにしてんねんボケカスこら!!」


 怒鳴り声が聞こえてきたと思うと、先までミトと交戦していた無法者の男のもとに、一人の女性が駆け足で近寄ってきて、


 ――ガシッ!!


 男の胸ぐらを、思いっきりつかみ上げた。

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