463 ミトの一閃

 ミトはダガーをくるっと回転させて、逆手持ちから通常持ちに戻した。


 「……あんちゃん、いいセンスしとるなぁ」


 すぐに立ち上がったミトを見て、無法者の男が言った。


 「受けがむっちゃ上手い」

 「……」

 「手応えありと思ったけど、俺の蹴りの衝撃と同時に、わざと自分で跳んだのか。そんで受け身して、転がって、という……こっちの手応えほど、ダメージは、受けてなかったんか」

 「……」


 男の、濃い紫色の瞳に軽蔑の色はない。素直に関心しているようで、ミトの姿を見つめていた。


 「……あなたこそ、」


 ミトもようやく、男に応えた。


 「ここまで戦っていて、無傷ではないですか」

 「……」

 「とても、特殊な能力を持っているようですね」

 「まあ、一応、マナを体内に取り込んでるんでな」

 「やはり……!」


 ミトが、目を細めながら、つぶやいた。


 「能力者……マナトと、同じ……!」


 ……ですよね。いや、それ以外、考えられない。

 マナトは思った。


 だが、これまで出会ってきた、どの能力でもないことも、間違いなかった。


 ……おそらく、僕やここにいるみんなの知らない、どこかの地方のマナを取り込んでいるのだろう。


 「……まっ、ええわ」


 男が、左手を突きだして、上向きにクイクイと、ミトを手招きした。


 「続きやろうや」


 手招きする度、中指と小指の指輪がキラキラと反射している。


 「続き、ですか……」


 ミトが、男に向かって、微笑んだ。


 「たぶん、これで最後ですよ」

 「おおぅ……言うねぇ。まあでも、そうやんな、そやった……うん」


 ――タッ!


 男のほうが先に動いた。


 「でもそれ俺のセリフやからな!!」

 「これで決める……!」


 ミトも、迎え撃つ構えを見せる。


 男の動きに合わせるように、ミトが左右に揺れながら前進した。


 ――ヒュッッ!


 初動で見せた動きと同じ、下から振り上げるミトのダガーの一閃。


 「はっ!もらった!!」


 ――グッ……。


 男が、先に護衛を倒したときと同じ、ワンテンポ遅れたモーションで、右拳に力を込めて振りかぶった。


 ――スッ。


 ミトがダガーを引っ込める。


 「わっ!フェイントっす!」

 「おおお!?」


 リートとケントが叫ぶ。


 「なにっ!?」

 「……」


 ミトが、その場で素早く身体を捻る。同時に、ダガーを持つ手を腰の後ろに回した。


 「俺の動きに合わせて刺し違えるつもりか……無駄やぞ!!」


 男は構わず右拳を繰り出してきた。


 「このまま殴り倒したるわ!!」

 「ったあ!!」


 その場でミトは勢いよく身体ごと横向きになりながら跳躍。ぐるん!!と、ミトが自ら捻りあげた身体を解き放って回転した。


 ――ヒュゥゥン!!


 遠心力の勢いに任せたダガーが一瞬にして、銀色の円を描く。


 「!?しまっ……!」


 ――ピッ……!


 ダガーの刃の先端が、男が突き出した拳の先端に触れた。


 「いっ……!」


 ――ツツ……。


 男の右拳の端……指の端がほんの少しだけ切れて、血が出てきた。

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