462 ミトの気づき

 「ミトくん危ない!」

 リートが叫んだ。


 「おらっ!」


 ――ブンッッ!!


 無法者の男の回し蹴り。


 「くっ!」


 ミトは横に跳んで、相手の足をギリギリで回避した。


 「ほらほらぁ!!」


 男は攻撃を緩めない。拳を突き出し、足を振り回し、ミトに追撃を加えてゆく。


 「アイツめ、切り返してくるのが速いな」

 「ミトくんの攻撃が当たらないことが、分かってるんすよ。一方的に殴り続けているようなもんっす」

 「くそっ!なんかズルいぜ!」


 リートの言葉を聞いて、ケントは吐き捨てるように言った。


 ……ミト、もう少し、粘って。


 水流は、マナトの手に集まりつつあるが、テッポウウオを撃つには、まだ、水量が足りなかった。


 ――ブンッッ!!


 男が、飛び蹴りを放つ。ミトは回避のために、大きく後退した。


 「おらどうした!防戦一方やなぁ!」

 「……」


 ――チャキッ。


 と、ミトが、ダガーを逆手持ちに切り替えた。


 「今度は、こっちの番だよ……!」


 そして姿勢を低くすると、


 ――タァン……!


 跳躍。逆に自分から、男に距離を詰めてゆく。


 「はっ!こいや!」


 ――シャッ!


 ミトが、横向きにダガーを振った。


 「……あっ?」


 男から、力が抜けたような声が漏れた。


 ミトがダガーを振ったのは、男よりも一歩以上手前。そもそも、ダガーの射程が、ぜんぜん、男に届いていない。


 「う~ん、なるほど」


 ミトがなにかを確認するように、うなずいている。


 「なんやお前、ビビってそんなとこで……!」


 ――スァ!


 と、今度はそこそこ踏み込んで、ミトが男に当たるすんでのところで、ダガーを振り下ろした。


 「ちょっと近いな……」


 なにかを、ミトは、確認している。


 「……なんやお前」


 ――ブンッッ!!


 男も踏み込んできて、ミトに殴りかかる。


 ――シュッ!!


 ミトも、引かない。


 お互い、危険な距離での打ち合い。


 「……ダメだ!やっぱりミトの攻撃は当たってねえ!」

 ケントが言った。


 その時、


 ――ドッッ!!


 男の不意の回し蹴りが、ミトを捉えた。


 「手応えありぃ!!」

 男が嬉々として叫んだ。


 「ぐぅ……!」


 ――ザッザザ……!


 受け身を取ったが、衝撃でミトは転がった。


 「ミト!!」

 「大丈夫っすか!!」


 ケントとリートが大声で呼び掛ける。


 「……」


 ゆっくりと、ミトが立ち上がった。


 「……フゥ」


 落ち着くためか、ミトが息を吐いた。


 そして、こちら側のほうに、振り向いた。


 「大丈夫ですよ」


 にこっと、ミトは爽やかに微笑んだ。


 「あぁ!出た!」


 リートがミトを指差した。


 「あの笑顔っす!」

 「くっ、あれか!あれなのか!」


 ケントもミトを見ながら、険しい顔で叫んだ。


 「あれが、村の女子たちを次々と落としていったっていう、笑顔なのか!」

 「たしかに、あの状況であんな顔、ズルいっす……」

 「チクショウ、ミトのヤツ、いつの間にあんなワザを……!」

 「く、悔しい!けど、イケてるっす……!」

 「やっぱりアイツ……!」

 「いやお二人なに言ってるんですか!?」


 マナトはリートとケントに突っ込んだ。


 ……でも、ミト、なにかに気づいたようだ!


 ミトの表情から、マナトはなんとなく察した。

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