461 無法者の男VSミト

 「ミト、お前、分かったのか?」

 「あっ、いえ、ぜんぜんですけど、あはは……」


 ケントの問いにミトは苦笑しつつ、言った。


 「でも、ジンかどうかの確認くらいなら、できるかなって」


 ――スッ……。


 ミトが、腰につけていたダガーを抜いた。


 「この国のキャラバンか」


 無法者の男が、ミトに言った。


 「知っとるぞ。最近、この国ではキャラバンになる奴が増えてきとるらしいな」

 「……」

 「一人で戦うつもりか?別に俺は、全員相手にしたって、いいんやけどな」

 「……」


 ミトは男の言うことを無視して、歩を進めてゆく。


 「……」

 「……」


 その光景を見ながら、ケントとリートは顔を見合わせ、お互い、うなずいた。


 「おい、マナト……」


 ケントが小さな声で、耳打ちしてきた。


 「ここは一旦、ミトに任せる。だが、ミトが危なくなったら、不意打ちしても構わない。当たるかどうかはともかくとして、いつでも、テッポウウオ放つ準備しといてくれ……」

 「そうですね、了解です……!」


 男に気づかれないように、マナトは腰につけている水壷から、細い細い水流を出した。


 ――シュルルル……。


 ストローほどの水流が、マナトの背中を上る。右肩、右腕と、男の視線を避けるかたちで移動し、少しずつ、右手にたまってゆく。


 「なんで俺が、血の確認を拒んだか、言ったろか」


 男が、歩を進めるミトに、言葉を次いでいる。


 「俺が住んでいるところでは、血の確認を人間にすること自体が侮辱行為そのものなんや」

 「……」

 「いくらこの国での決まりとはいえ、それを簡単に容認することはできない。分かるやろ?」

 「……」

 「血の確認そのものが、人間でないという疑いから生じる。侮辱以外のなにものでもない」


 ……なるほど~。

 マナトは納得していた。


 これまで、まったく気にすることはなかった。たしかに、見方を変えれば、そういう面も、あるかもしれない。


 「お前、さっきの戦い、見てたろ?俺は、倒せへんで?」

 「……」

 「てゆうか、お前、」


 ――バッ!!


 男が跳躍した。紫色の視線が、ミトを凝視している。


 「なんかしゃべれや!!」


 ――ブンッッ!!


 一気に距離を詰めて、踏み込んだ男の右ストレート。


 ――サッ!


 ミトが素早く身体を横に捻る。勢い余って男は前のめりになって、ミトの前に身体を投げ出したようになった。


 「マジ!見切られ……!」

 男が驚く。


 「おっしゃ、いけるぞ!!」

 「いけ~ミトォ!!」

 ケントとマナトは叫んだ。


 ――シュッ!!


 ミトの下から上に振り上げる一閃。


 ――クィィ……!


 「!」

 ミトの目が大きく見開いた。


 ダガーの残像が、ちょうど男の身体を避けるように滑らかに曲がる。


 そして、ミトが振り切ったときには、もとのダガーの軌道へと戻っていた。


 「あぁ、ダメか!」

 「やっぱりか~!」


 ケントもマナトも嘆きの声をあげた。

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