465 ユスフとハウラ/象牙のダガー

 赤紫の、背中まである長いストレートヘアに、無法者の男と同じ、濃い紫色の瞳。


 だが、男の垂れ気味離れ目と違って、女の目は、目尻が吊り上がっていて、両目の間も寄り気味……いわゆる、ネコ目をしていた。


 そのネコ目が、今は、怒りのせいか、さらに吊り上がってしまっている。


 「ここに倒れとる護衛らやったんもお前やろ!おらユスフ!答えろや!!」


 女は無法者の男……ユスフの胸ぐらを掴んだまま、ガンガン揺らし始めた。


 「う……が……は、ハウラさま……か、勘弁……!」


 胸ぐらを掴まれたまま、ユスフは、息苦しそうにもがいている。


 「勘弁できるわけあらへんやろぉぉ……!」


 対して、女……ハウラは、締め上げる力をますます強めている。


 ハウラも、ユスフと同じ、足元まである長袖の、所々に白のラインが入っている、腰には白と緑のチェック柄の布を巻いた黒装束を纏っていた。


 ただ、腕が長いせいか、手が長袖から手首の少し先まではみ出している。背も、ユスフより高い。


 「お仲間さん、登場って感じっすね」

 リートは言った。


 また、ハウラの腰には、ミトやラクトとは違うデザインのダガーが装備されている。


 「お前のせいで、ウチら、このメロの国の入国、再審査になってもうたんやぞ……!」

 「ぁが……!」


 ……男の人よりも、もっと、こってこてのお訛りだ。

 マナトは思った。


 ――ブンッ!


 ハウラが、ユスフを投げ飛ばした。


 ――ドサッ……。


 「あぅ……!」


 先までの戦いがなんだったのか分からなくなるくらい、あっけなくユスフは地面に倒れた。


 ――シャキ……。


 そして、ハウラは腰につけているダガーを抜いた。


 「おぉ」

 「あのダガー……!」


 ハウラの持っているダガーを見た、ケントとミトが反応した。


 そのダガーは、一般的な、鉄色の光沢のものではなく、真っ白な刃をしている。


 「珍しい。あれは象牙ぞうげでつくったダガーだ」

 ケントが言った。


 「へぇ!ゾウさんですか!」

 「ああ、そうだ。たぶん、マナトは実際に、まだ遭遇してないよな」

 「はい。でも、前の世界でもいましたし」

 「そうだったのか」

 「懐かしい。あれですよね、とても大きくて、とても長い鼻で、2本、大きな牙があって」

 「ああ、そうだ。その牙で、あのダガーは出来てる」

 「へぇ、そっかぁ。こっちにもいるんですね。見てみたいなぁ~」

 「……なぬっ!?」


 ケントが仰天している。


 「見てみたいだと!?」

 「えっ?なんか僕、変なこと言いました?」

 「おいマナト。ゾウは、このヤスリブの世界でも代表するくらいの、てか、地方よってはジン以上とも言われるほどの、一番危険な生物だぞ……!」

 「……えっ?そうなの?」


 と、話している間にも、ハウラが象牙のダガーを構え、


 「騒ぎ起こすなって、入国する前にあれほど言ったやろが……死にたいか?死にたいんか?ウチが代わりに死なせたろか~!?!?」

 「ちょ、勘弁し……!」


 ――スァァアア!!


 真っ白な刃の残像が、ユスフをかすめた。


 ――ツ~。


 ユスフの頬が少し切れる。血が流れた。


 「は、ハウラ殿、待たれよ~!」


 すると、護衛の別動隊がやって来て、ハウラのもとへ駆け寄った。

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