328 オルハンの宿へと向かう、道中にて

 「ぜ~ったい、上位の階級取るわよ!!」

 「い、いや、そんなこと言われても……」


     ※     ※     ※


 「はぁ~。さっきのライラには、参ったなぁ~」

 「ウフフ、思っていた以上に、ライラにとっては深刻だったようね、階級制度」


 飲み物屋での集まりを解散し、フェンとフィオナは、大通りの中心部を離れ、石造りの住宅がひしめき合う路地を歩いていた。


 「でも、大丈夫じゃないかしら?今回の交易報酬競争は、トップクラス間違いないんでしょ?それに、ライラも言ってたけど、ワイルドグリフィンでの功績もあるわ」

 「ああ。そのあたりは、ある程度期待していいと思う。それに、活躍でいえば、ウテナもいる。いまのウテナの人気は、とてつもないことになってるし」

 「ウテナと一緒のサロンってだけで、私たちすら、周りから、見られるものね」

 「とはいえ、他にも実力のあるサロンはいくつかあるし、やっぱり、フタを開けてみないと、かな」


 話しながら、フェンとフィオナは歩を進める。


 2人はオルハンの住む宿へと向かっていた。


 結局、オルハンは、飲み物屋に現れることはなかった。そのため、先の会話の内容を伝えるためだった。


 「しかし、オルハンにしては珍しいなぁ」

 「そうね。あれで、キッチリしてる性格だし。……あら?」


 路地を進んでいると。十数人ほどの人と、数人の護衛が見えた。


 「……はい、大丈夫です。協力、ありがとうございます」


 護衛が目の前の一人に一礼合掌した。


 「次の方」

 別の一人を、護衛が呼んでいる。


 「護衛さん!」


 次に護衛の前に立った年配の女が、護衛に言った。


 「ジンが、このメロに潜伏しているって、本当ですか!?」

 「いえ、ないです」

 「みんな、言ってますよ!?だから、血の確認をしてるって、言ってますよ!?」

 「これは、アクス王国からの要請で、メロの公爵がその要請を受け入れたため、行っているだけです」

 「いや、でも……」

 「いえ、ないです」


 護衛と女の会話が聞こえてくる。


 「……」


 無言で、2人は護衛と十数人の前を通り過ぎる。


 しばらく進むと、小高い丘になっている、緩やかな斜面の上り坂に差し掛かった。


 その丘の斜面も舗装されて、住宅が立ち並んでいる。


 この、小高い丘を上ったところに、オルハンの住む宿はあった。


 「さっき、血の確認していたね」


 フェンが、隣で歩くフィオナに言った。


 「そうね」

 「ジンが潜伏しているんじゃないかっていう、噂が、広がりつつあるけど、フィオナは、どう思う?」


 フェンは、少し、声を低く、小さくし、それでいてフィオナには聞こえるように、言った。


 フィオナは無言のまま、フェンの顔を見た。


 ムスタファ公爵から、ジンの存在を明言することは控えるように言われている。


 「……噂なら、噂で終わってほしいわ」


 フィオナは当たり障りなく、言った。


 「はは、たしかに」

 フェンは笑った。


 2人は上り坂を上りきった。オルハンの宿が見える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る