329 オルハンの宿の前にて

 オルハンの宿は、いわゆる共同住宅になっていた。


 灰色の、粗めの石の壁。2階建てになっていて、2階の部屋ごとに、扉へと向かう階段がついている。


 「……えっ?」

 「階段の前に、護衛、が……?」


 そのオルハンの部屋の扉へと向かう階段の前に、護衛2人が立っているのが見えた。


 オルハンの宿である共同住宅は、いわゆる、若者らが一人で住むためのもので、そんな建物の前に護衛が立っているという光景は、なかなか不自然なものだった。


 「やあ、お疲れ」

 「おう、フェンか」


 護衛の一人に、フェンは親しげに話しかけ、護衛も応えた。


 「知り合い?」

 「ああ」


 フェンは、護衛に問いかけた。


 「オルハン、いる?」

 「ああ」

 「もしかして、オルハン、なにか、やらかした?」

 「さあ?お前らこそ、知らねえの?」


 フェンとフィオナは、顔を見合わせた。


 「……いや、なにも。今日のサロン内の隊長同士での集まりに、オルハンが来なかったんだよ」

 「なるほどな」


 護衛は、淡々と言った。


 「俺たちは、上から命じられて、立っているだけだぜ」

 「オルハンに、会える?」

 「いや、他人との面会を禁止されてるんだよ」

 「……やっぱり、なんか、やらかしたって、ことなんじゃ」

 「はは、かもな」


 護衛が軽く笑う。


 「仕方ないわね。とりあえず、一筆、書いとく?」

 「そうしようか」

 「紙と筆ならあるぞ」


 護衛から借りて、フェンが筆を走らせる。


 「……よし、それじゃ、渡しといてくれ」

 「うい」

 「ちなみに明日、サロン大会あるんだけど、オルハンは参加できそう?」

 「いや、それも、分からねえよ」

 「……」


 護衛の返事に、フェンもフィオナも肩をすくめた。


 2人は来た道を引き返した。


 緩やかな下り坂。顔をあげれば、メロの雑多な石造りの街並みが遠くまで見える。


 「オルハン、大丈夫か?なんか、昨日の夜に、どこか騒ぎでも起こしたんじゃ……」


 フェンが心配そうに言う。


 「……」


 ……オルハン、まさか?


 フィオナは、別のことを考えていた。


 ――シュル……。


 「……んっ?」

 「あっ」


 下り道の途中、フェンとフィオナの目の前に、細い水流が、うようよと浮いていた。


 水流は、下り道の途中にある民家の裏に続いていた。


 「これ……!」

 「ああ……!」


 フィオナとフェンは道をそれて、水流のつたうほうへと歩いていった。


 影になっている、民家の裏側のほうへ。


 「よう」

 「オルハン……!」


 オルハンがいた。


 ――シュル……。


 水流が、オルハンの水筒に収まる。


 「オルハン……!」

 「ちょっと、なにしてるん……」


 フェンが言葉に詰まった。


 オルハンの上半身、引き締まった身体に、白い包帯がグルグルに巻かれていた。明らかに重症者のそれだった。

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