516 マナト、心の変化

 「うおぉぉいマジかぁ!!」


 ケントが興奮して立ち上がる。


 「一瞬のスキを突いた一閃……あのキチガイ野郎、やるじゃねえか!」

 「あははは!ケントくん、誉めているのかけなしているのか、分からないっす!」


 笑いながらリートが突っ込みを入れた。


 「あはは!おい、ケント!さすがにキチガイは言い過ぎだぜ!」


 ムハドも笑いながら、ケントに言った。


 「あのオルハンていうヤツは、あくまで修羅の扉がよく開くだけで、割と普通の青年だ」

 「そ、そうすかね?」

 「……あっ、でも、さっき一瞬、欲望の扉が開いていたような気もするが……?」

 「いや、ムハドさん、修羅の扉と欲望の扉ばっかり開くって、それってもはやキチガイでしょ!」

 「あはは!」


 オルハンと、ナジームサロンの男が、ステージを降りてゆく。


 ステージ下手側の階段を下りたところに医療班がスタンバイしていて、ナジームサロンの男が下りてくると、手当てを始めた。


 「マナトとやり合った時も思ったが、やっぱり、あのオルハンて男、かなりのやり手だな」

 「ええ」


 下手側で、男が手当てを受けているのを見ながら、ラクトとサーシャが話している。


 「あんまり、傷は深くなさそうだな、あの男」

 「そうみたいね。かなり水を吸収していたもの」

 「つーか、やっぱ決勝トーナメントってだけあって、まだ2戦しかしてねえのに、密度がスゴいぜ……!」

 「……ダメよ」


 若干うずうずしているラクトに、サーシャが釘をさす。


 「ちぇっ。……あっ、そうだ!おいマナト、あとで俺の傷口が本当に直ってるっていうの、ちょっと、見てくれよ!」

 「ダメだってば」

 「……」

 「……マナト?」

 「……?」


 返事のないマナトに、2人が視線を注いだ。


 「……」


 ……なんて、強いんだ、オルハンさん……!


 先の戦い。


 マナトは2人以上に……いや、ここにいる誰よりも、衝撃を受けていた。


 自然、あのステージに自分が立たされたときのことを考えながら、戦闘を見ていた。


 水を操る能力を封じる盾。


 ……考えてみれば当然だ。水壷があるのだから、盾だって。


 だが、マナトは、水塞ぎの盾なんていうものを、初めて目にしていた。


 盾に吸収されてゆく、水。劣勢になってゆく状況。


 それを乗り越えて勝利を勝ち取った、オルハン。


 ……僕なら、どうしていただろうか。……あ、あれ?


 自分で考えていながら、マナトは自分自身が、結局、あのステージの上に立つことを、考えていることに気づいてしまった。


 フィオナ、闘志。オルハンの、執念。


 ……闘争本能。


 「おい、マナト」

 「うわっ!」


 ラクトの顔が、目の前に現れた。


 「お前、また賢者モードになってただろ」

 「あっ、いや、ちょっと違うというか……あっ、ラクト!」

 「おい、話を反らすんじゃ」

 「ウテナさんが、ステージに……!」

 「!」


 ――ざわざわ……!


 会場がざわつき始める。


 「おい、とうとう出てきたぜ……!」

 「ウテナだ……!」

 「アイツ、失踪してたって聞いたけど……!」

 「自殺した訳じゃなかったのね……!」


 さまざまな声があちこちで囁かれる。


 ――バッ!


 ステージの上、その纏っていたマントを脱ぎ去った。

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