515 勝ちへの執念

 ステージ上では、やはり、男が一方的に攻撃を繰り出していて、オルハンは回避するか、ダガーより小さくなったウォーターアックスで防御するしか手だてがない。


 ――シュッッ!


 「いまの踏み込み甘い!相手、焦ってるわよ!」


 ――ブンッッ!


 「オルハン!いまのスキは突けたんじゃないか!?」


 男が攻撃を繰り出すのに合わせて、フェンとフィオナがちゃちゃを入れ込む。


 ――わぁ!わぁ!


 周りの観衆はすでに言いたい放題の喧騒。


 ステージにちゃんと聞こえているのは、フェンとフィオナの声だけだった。


 「……」

 「いまの斬撃!!」

 「……」

 「あっ!!その突き!!」

 「……」


 ――カク……!


 少し、男の連続攻撃の動きが、ぎこちなくなった。


 「チッ!」


 フェン達の向かいで観戦しているナジームが立ち上がり、ステージに駆け寄った。


 「ハッタリだ!!惑わされるな!!」


 ナジームも負けじと叫び始めた。


 「みっともないぞお前ら!!それでも交易報酬一位を取ったサロンのやることか!!」

 「くっ……!」

 「やるわねナジーム……!」


 フェンとフィオナが押し黙った。ナジームが思いのほか饒舌だ。


 「分かってないわねナジームぅ!!」


 ライラも参戦。フェンとフィオナの前に出ている。


 「どんなに泥臭くても、みっともなくても、勝ちゃいいのよ!!勝ちゃ!!」

 「みっともなさすぎる!!」

 「そこが分かってないのよねぇ!!執念が違うのよ!!アンタ達のサロンとはね!!」

 「……ふん!どうせ水の能力を封じられて手も足も出なくなったんだろう!!」

 「なに?水の能力を封じただと?」


 とうとう、オルハンが反応した。


 「あははは!おいおい、勘違いしてんじゃねえよ!」


 せせら笑う。


 そして、言った。


 「必要ねえんだよなぁ、こんなヤツに、水の能力なんかよぉ……!」

 「……んだと!」


 ――ブンッッ!!


 男のシールドアッパー。盾を持った手で、思いっきり突き上げる攻撃。


 それはつまり、完全な、大振り。


 黒い盾が、回避したオルハンの髪をかすめる。


 「ば、バカ……!」

 ナジームが思わず声を漏らした。


 「き、きた!!」

 「オルハン!!」

 フェンとフィオナの声。


 「いけーーー!!!!」

 ライラが絶叫した。


 ――シュルルジジジジ……!


 水筒から出てきた新たに水流が、オルハンの右手を通る。ダガーよりも少し小さな、ウォーターアックス。


 「俺さ、今日、負けらんねえんだよ……」


 ――ジジジジジジ!!


 水量は少ないが、その音が切れ味を物語る。


 「なんつったって、今日……ルナが見てるんでな!!」


 オルハンが踏み込んだ。


 男の身体を斜めから斬り倒す一閃。


 ――ズァン!!

 

 「ぐはっ!」


 男の血が飛んだ。


 ――うおぉ~!!


 逆転勝利に会場が沸き上がる。


 ステージ上手でフェンのサロンが跳び跳ねるように喜んでいた。


 「……ふぅ~」


 オルハンが軽く息を吐いた。


 向かいには、男が自らの出血を、確認している。


 「すまん。俺も、アイツらの言ったことも、全部、ウソだ」

 「!」

 「お前が冷静なままだったら、俺は負けてた」

 「く、くそぉ……!」


 男が悔しさを滲ませた。


 オルハンは、ステージ上手のほうへと下がった。

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