514 活路
オルハンが後退しながら、水筒から新たに水流を出して右手に通す。
――シュルルジジジジ……!
ウォーターアックスが少し戻る。
「させぬぞ……!」
相手の男が前傾姿勢で踏み込んできた。
そのままサーベルで攻撃。
――ギギ……!!
オルハンは反射的にサーベルと同じくらいにまでの大きさになったウォーターアックスで受けた。
「サーベルならウォーターアックスで……!」
――ブンッ!
「なにっ!?」
下から、水塞ぎの盾が振り上げられる。
――ジジ……ジジ……。
盾に触れ、ウォーターアックスが吸収されてゆく。
「くっ!」
オルハンはウォーターアックスを吸収されまいと振りきり、さらに後退。
「……」
しかし、男もオルハンに再起を与えまいとさらに詰め寄る。
――ススァ!ブンッ!
サーベルの素早い斬撃に、水塞ぎの盾の打撃を織り混ぜた、男の連続攻撃がオルハンを襲う。
――ジジ……。
斬撃の合間に殴るように繰り出してくる盾が、ウォーターアックスをみるみる削る。
「なんてこった……クソ!そういうことか!」
ステージを眺めながら、フェンが悔しそうに言った。
「おそらくナジームは、オルハンが水筒しか持っていない、用意不周到を笑っていたんだ……!」
「完全にやられたわね……」
フィオナも険しい顔をしながら言う。
「能力過信てヤツだわ。当然と言えば、当然の対策をナジーム達はしてきたに過ぎないわね……」
「しかも、あのナジームの部下、盾を持ってからのほうがしっくり来てるぞ」
「ええ。あれが、あの男の本来の戦闘スタイルのようね……」
オルハンが、ステージ端、コーナーのオベリスク風の石柱へと追い込まれる。
「んもう!!なんとかしなさいよ~!!」
たまらず、ライラが叫んだ。
「おいおい!お前ら、なんだその顔は!そんなに心配か!?」
ステージ上、オルハンが相手の男から目線を反らして、言った。
その右手に握られているウォーターアックスは、ダガーよりも小さくなっている。
「!」
すかさず男が盾で殴りかかる。
「おっとぉ!」
オルハンが前屈して、盾の攻撃を回避。
そのまま盾の下をくぐり抜ける。石柱のあるコーナーを脱出した。
――おぉ~!!
オルハンの、一切ムダのない動きに、会場が沸いた。
「うまい!!」
「やるじゃない!ナイスパフォーマンス!オルハン!」
ライラとフィオナが手を叩いた。
「あの動きは、あれだ……ゴロツキの頃の殴り合いのケンカをしていた経験が活きてるんだ」
フェンは若干苦笑気味だった。
「ちっ」
男が舌打ちした。
「おいおい。焦ってるのか?」
「……」
「勝負を早く決めたいって気持ちが、先に出すぎてるぜ?」
「……」
――シュッ!
「あっ、ほら、大振りになってるじゃねえか」
間一髪、サーベルを避けながら、せせら笑うようにオルハンが言う。
「そ、そんなに大振りになってる?」
「い、いや、あれは、挑発だと思います……!」
ライラの言葉を受けて、ウテナが口を開いた。
「……似ている。オルハン先輩、ジンがしたことを、そのまま相手に……」
「なるほど……いや、活路はそこしかない!」
「フェン!!声かけるわよ!!」
「ああ!!」
フェンとフィオナがステージ上手側から身を乗り出した。
「いいぞオルハン!!相手は大振りになってきてる!!」
「スキを見せたところを突けば勝てるわ!!」
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