513 水塞ぎの盾

 「おら!おらぁ!!」


 ――ジジジジ~ジジジ……!


 ウォーターアックスの唸るような水圧音に、オルハンの気力みなぎる声が合わさる。


 「……」


 圧倒されてか、男が少しずつ下がり始める。


 手数もオルハンのほうが多くなる。グイグイと、ステージ端に男を追い詰めてゆく。


 「いけいけ~!!オルハ~ン!!」


 ライラが跳び跳ねながら、オルハンを応援している。


 「いや、まだ分からないよ!」

 「ええ、なにか嫌な予感がするわ!」

 フェンとフィオナが言った。


 ちなみにフィオナは医療班の治療を受け、肩は包帯で巻かれている。


 「ちょっと、フェン!フィオナ!不謹慎なこと言わないでよ!」

 「見て、ステージ外の、あのナジームの表情」

 「えっ?」


 フィオナに言われ、ライラはステージ下手側で、戦いを見守っているナジームに視線を移した。


 時おり、ナジームは隣のサロンメンバーと会話を交わしている。リラックスしている様子。


 と、ステージの上を眺めた。


 「……あっ?」


 すると、一瞬、ナジームの口元が、不適な笑みを浮かべているように、ライラには見えた。


 「い、いま、ナジームのヤツ、笑ったような……?」

 「やっぱり……きっと、なにか策があるはずだ!この状況を打破するなにかが!」

 「オルハン!!気を付けて!!なにかあるわよ!!」


 フィオナが大声で叫んだ時には、オルハンは男をステージ端に追い詰めていた。


 「もう逃げられないぞ!!くらえ!!」


 ――ジジジィィイイイ!!


 ウォーターアックスの一閃。


 その時、


 「……」


 男が白装束のふところに手を突っ込むと、大皿くらいの大きさの、黒色の丸い円盤状の盾を取り出した。


 ウォーターアックスと盾が触れる。


 ――ギギギイィィ!


 水圧が盾に傷をつけてゆく。


 「そんな柔そうな盾、真っ二つにしてやらあ!!」


 ――ギギ……ジ……ジジジィ……!


 「!?」


 ウォーターアックスの大きな水圧のやいばを防ぐには、その盾はいささか小さく見えた。


 だが、傷こそついたものの、その盾はウォーターアックスの斬撃を食い止めている。


 そして、それだけではなかった。


 ――ジ……ジジ……。


 ウォーターアックスが、みるみる小さくなってゆく。


 「なに!?」

 「……」


 ――ガッ!


 男が盾を振り上げる。小さくなったウォーターアックスが跳ね上がった。


 ――シャッ!


 男がサーベルでオルハンを攻撃。


 「くっ!」


 オルハンは後退してサーベルを回避。


 「逃がさぬ……!」


 男は言うや否や跳躍、オルハンへ追い討ち。


 完全に、形勢逆転。


 「や、やられた!」

 「オルハン、かなりヤバいわね……」

 「ねぇ!!どういうことなの!?」


 愕然とするフェンとフィオナに、ライラが問いかけた。


 「水塞みずふさぎの盾よ、ライラ……水壷や水筒の応用で、そういったマナの力を付与させた盾なの」

 「そ、そんな……」

 「完全に対策されていたんだ……まずいぞ!オルハンのヤツ、水筒以外に武器を持ってない!!」

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