510 オルハン×ナジームサロンの男

 オルハンが、ステージ中央付近に歩みを進める。


 白無地の上着の上から、光沢のある深緑の肩掛けを羽織り、下は金色のパンツをきらめかせ、その性格を現したような、派手な装いをしていた。


 そして、腰には、水筒。


 ――わぁ、わぁ!!


 「おい来たぜ!問題児!」

 「オルハン!ちゃんと身体の傷は直してきたんだろうなぁ!?」

 「これで負けたらおもんねえぞ!」

 「負けんじゃねえぞ!」


 観衆の中からオルハンに向けて、野次が飛んだ。


 「あのオルハンてヤツ、意外と人気あるんだなぁ」


 周りの反応を見ながら、ラクトは言った。


 ……たしかに。


 ステージに投げ掛けられている野次の中には、どちらかといえば応援のようにも聞こえるものが、多々あるように思える。


 マナトはターバンの下から、そんなオルハンを眺めた。


 「……さすがに今回はもう、いきなり襲っては来ないよね?」

 「ん~、どうだろうな。……だけどさ、」


 ラクトが、マナトを見た。


 「あの場外乱闘の続き、気になるけどな。実際、どっちが勝つか」

 「えぇ……」


 ……それぜったい、戦わされるパターンですやん。


 「まあでも、あのサロンが勝ち上がらねえとって感じだけどな」

 「た、たしかに!」


 ……よ、よし。フィオナさん達には申し訳ないけど、今回はあのナジームサロンの男の人を応援しよう……!


 ラクトが言うのを聞きながら、密かにマナトは思った。


 ステージ上では、オルハンの向かいに、ナジームサロンの男が立つ。


 背が高い。オルハンも背が高いほうだが、その男と比較して低く見えてしまっている。


 ナジームと同じように、ターバンを深く被り、サーベルを携えた、商人騎士の装い。


 その男を、オルハンは見据え、言った。


 「挨拶はいらねえ!先手はお前にやる!好きなように攻撃して来いよ!」


 ――おぅうぃ~!!


 「オルハンが相手に挑発したぞ!」

 「パフォーマンスだ!いいねぇ!」

 「いや、交わせる得手持ってないだけじゃね?」

 「おいナジームサロンの!やっちまえ!」


 観衆が沸く。


 「……」


 そんな中、男は一度振り返って、ステージ下のナジームを見た。ナジームは腕を組みながら、コクリと一度、うなずいた。


 それを見た男もコクリとうなずくと、オルハンに向き直った。


 ――シャキッ……。


 男が腰につけているサーベルを抜いた。


 ――タンッ!


 跳躍。


 ――シュッ!


 男がオルハンに切りかかった。


 「おっと!」


 オルハンはサイドステップを踏み、サーベルを回避。


 ――シュルルル……ガシッ!


 腰につけた水筒から出てきた水流を、オルハンが掴む。


 ――ジジジジ……!


 水圧の増してゆく音とともに、オルハンの手を通った水流が、斧の形状を成してゆく。


 水圧の斧……ウォーターアックス。


 「いくぜ!!」

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