511 アブド、ユスフ、ハウラ、観戦しながら

 水圧のやいばが、ナジームサロンの男に振り下ろされる。


 男は素早く腰を下げ、次の瞬間には横に移動。ウォーターアックスを避け、回り込んだ。


 ――シュッ!


 横側から、男がサーベルで攻撃。


 「来いや!」


 オルハンが迎え撃つ体制。


 ――ギギギッ!!


 サーベルにウォーターアックスが触れ、激しい音が鳴り響く。


 ――ギィン!!


 男はサーベルを振り抜き、後ろへバックステップ。


 「逃がすか!」


 オルハンが男を追いかけるかたちで駆け出しつつ、ウォーターアックスを振りかぶる。


 「!」


 男が急に反転。オルハンに向かってきた。


 「チッ!タイミングを……!」


 オルハンは舌打ちした。向かって来られたことで、攻撃のタイミングがずれ、逆に相手のサーベルを受ける側になってしまう。


 微妙な駆け引きが、上手い。


 「へっ!とう!」


 オルハンが飛び上がる。サーベルの横凪ぎを回避。


 オルハンと、男の位置が、入れかわる。


 「……」


 男の、ターバンの下にある目が、しっかりとオルハンを捉えている。


 「おうおう、やる気満々じゃねえかよ」


 オルハンが動いた。呼応するように男も前へ。


 「そう来なくちゃな!」


 ――ジジジ……!


 「……」


 ――スァ!


 オルハンと男がステージ中央で刺し合う。


 牽制し合いながら、戦いの主導権を探り合っている。


 その光景を、ステージ正面にある特別席で、アブド、また、ハウラ商隊は観戦していた。


 「あの派手な服装の兄ちゃん、クルールのマナを取り込んだ能力者かぁ!」


 ユスフが言った。


 「ちゃんと、マナを取り込める器を持ってる人間、おったんやな」

 「器、か。なるほど」


 ユスフの言葉を聞いて、アブドが言った。


 「ギルタブリルでは、そういう人間のことを、器を持ってる人間、というのだな」

 「せやな。それにしても、こんな催しが、メロの国にはあるんかいな!」

 「いや、今回、初めての試みである」

 「ええやん!見直したわ、この国」


 ユスフはオルハンに興味を示しているようで、好奇な眼差しを戦いに向けている。


 「公爵、よろしいです?」


 ハウラがアブドに話しかけた。


 「たしかクルール地方の、マナの守り神って……」

 「あぁ、クルールは、人魚である」

 「守り神と、人間との関係って、どうなんですのん?」

 「ん~。私は、その管轄ではないので、あまり、詳しくは知らないし、国や村によってまちまちでもあるが……」


 アブドは前置きしつつ、ハウラに答えた。


 「このメロでは、一応、神殿を設けてはあるが、関わりは、ほとんどないだろう」

 「ほう」

 「たしかギルタブリル地方の守り神は……」

 「蠍人さそりびとです」

 「そのマナに宿っている能力は?」

 「いやぁ、どう言ったらええもんか……あんなふうに、ステージで兄さんが派手に披露できるような、クルールのマナと違って、目に見えない、地味な能力なもんで……ほほほほ」


 ハウラはおしとやかに笑った。


 「あなたの商隊で、その能力が使えるのは?」

 「あのコだけです」


 ハウラが、後ろ指でユスフを差した。


 「あぁ、めっちゃ、駆り立てられるわ、闘争本能……!」


 ユスフが若干、うずうずし出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る