509 マナトとサーシャの会話と、ラクト

 「……フフッ、マナト」


 ラクト越しに座っているサーシャが、呆然としているマナトに苦笑しながら言った。 


 「口、開いてるわよ」

 「あ……」

 「気づいてなかったみたいね」

 「あはは……いやもう、戦いがスゴくて……」

 「……あの相手のターバンの人、相当な策士だったわね」

 「あぁ、えっと……最後の、レイピアの刃を折ったことですか?」

 「ええ。斬撃の中に、明らかに、レイピアそのものを狙って打ち込んでいるものがあったわ」

 「そうだったんだ……」 

 「……刃が折れるまで、気づかなかったわ」

 「……だな。俺もだ」


 サーシャが言うのを聞いて、ラクトもうなずいた。


 ……つまり、2人とも、あのナジームって人と戦ったら、負けてたかもってことなのかな。

 マナトは思った。


 ステージ下手脇で、その当人……ナジームが、白装束を肩にかけ、アーマーを担いで、階段を降りてきた。


 ナジームを、サロンメンバーが囲む。


 サロンメンバーも皆、ナジームと同じくターバンを深く被っていた。


 皆、表情が分かりづらいが、ターバンの下の口元は、緩んでいる。みんな笑顔のようだ。


 ナジーム自身は、次にステージに上がるであろう、背の高い男のメンバーに話しかけている。指示を出しているようだ。


 「……どうして、ターバンしてるんだろ?」

 「……えっ?」


 ナジームを見ながらつぶやくマナトに、サーシャが反応した。


 「……気になるの?」

 「はい、ちょっと。なんとなくですけど」

 「おしゃれ……の、つもりでは、なさそうね」

 「ですよね。戦いを見てて、あっ、あと、あのインナー姿の感じ……勝手な印象ですが、なんとなく、その感性、持ち合わせてはいないんじゃないかなって」

 「……そうね」

 「僕自身、こうしてターバンしてるので、そういうふうに思っちゃうのかもなんですけど……ターバン深く被ってる人って、なにか、事情を抱えているんじゃないかって、思うんです」

 「……なるほど」

 「周りのサロンメンバーは、あの感じ、あのナジームって人に憧れてのほうが、強いのかもですけど」

 「……まあ、分からないけどね」

 「そうですね」

 「……」

 「……」

 「別に、ターバン被るのが好きなんじゃねえの?」


 2人に、ラクトが言った。


 「深読みするところか?そこ」

 「……ウフフフ」


 サーシャが笑った。


 「なに笑ってんだよ、サーシャ」

 「いや、別に。……でも、そういうところ、好きよ、ラクト」

 「ぬぁっ……!?」


 ……わお。


 「……」

 「……お、おい、なんかしゃべれよ、サーシャ」

 「……どうして?」

 「どうしてって……」

 「……」


 マナトは横目でチラッと、2人を見た。


 周りの喧騒と熱気で弾けた空気の中、2人の間にだけ、なんともいえない空気感が漂っている。


 「あっ!来たぜマナト!アイツだぞ!」


 前に座っているケントが振り向きながら、ステージを指差した。


 「あっ!!」


 ――バッ!


 反射的に、マナトはしゃがんで、前に座るケントの背に隠れた。


 それを見たラクトが、言った。


 「てゆうか、マナト、ターバンしてんだから、バレねえんじゃね?」

 「……あっ、そうだった。ターバンしてるの、忘れてた」

 「いやさっきまでその話してただろ……」

 「ウフフ……」

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