383 ラクト、宿屋にて

 「……」

 「……どうしたの?」


 夜。


 窓から外を眺めているラクトに、サーシャは言った。


 「……」

 「ラクト」

 「……んっ」

 「どうしたの?」

 「あぁ、いや、なんでもない」

 ラクトは答えた。


 サロン対抗戦を終えたムハド商隊は、数組に分かれて宿をとり、それぞれ、思い思いに過ごしていた。


 ラクトは、ミトやマナトなどのいつものメンバーに加え、岩石の村の面々と、巨木の点在するエリアに隣接している宿に泊まり、卓を囲んで夕食についていた。


 ただ、マナトは不在で、サロン対抗戦中、いきなりやってきたムスタファという公爵に連れていかれて以来、戻らずにいた。


 「いやぁ~!今日は、なんていうか、ハチャメチャだったなぁ~!」

 「ですね~!モグモグ……!」


 ケントとミトが快活に会話しながら、ガツガツと飲み食いしている。


 「でも、ケントさん、結局、フィオナさん達に挨拶できなかったですね」

 「ああ。でもまあ、なんか、お取り込み中っていう、感じあったし。この国にいる間に、顔見せればいいだろ」

 「それもそうですね、モグモグ……!」

 「いやでも、やっぱ一番盛り上がったの、マナトんとこだよな!」

 「モグモグ……はい、すごかったですよね!」


 マナトの話で、2人は盛り上がり始めた。


 「……」


 ラクトはまた、窓の外を眺めた。


 宿のすぐ前にある通りが見える。


 恋人同士だろうか、数組の、男女が歩いている。巨木に目をやりながら、寄り添い、仲睦まじく夜の散歩を楽しんでいるように見えた。


 そんな男女とすれ違うように、数人の護衛が歩いている。この宿に入る直前にも、彼らを見ていた。どうやら、この近辺を、徘徊しているようだ。


 そして、そんな通りの先は、暗闇。巨木に星の光が遮断され、真っ暗な世界がどこまでも、広がっていた。


 「ずいぶんと、浮かない顔をしてますわ、ラクトさん」

 「ホントだ!どうしちゃったの~?」


 ラクトの向かいに座っているサーシャの召し使いと、ニナが言う。


 「サロン対抗戦では、あんなに活躍されてましたのに」

 「ホント、すごいかっこよかったよ~!」


 マナトが場外乱闘を繰り広げた後も、サロン対抗戦は続けられていた。


 サロン対抗戦は総当たり戦となっていて、数日行われた後、戦績のよかったサロン数組で決勝戦を行うといったものだった。


 そこに、ムハド商隊も、イチサロンとして出場。


 結果、全勝。


 そして、そのすべての戦いに、ラクトは先鋒として出ていた。どの試合も一瞬で決着がついた。間を詰めて、一閃。これの繰り返しだった。


 相手は、強さにもよるが、中にはラクトの動きにまったく反応できずに、頬をかすめ切られる、マナトのような者すらいた。


 「……もっと、喜んでも、いいんじゃない?」


 召し使いとニナが言うように、サーシャもラクトに言った。


 「……かっこよかった」

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