459 当たらない攻撃

 ――トン、トトン……!


 無法者の男を避けたボウガンの矢が、巨木の太い幹に刺さった。


 「な、なぜ!?」

 「ボウガンの矢が……!?」

 「い、いま、勝手に軌道が変わったぞ!?」


 護衛たちも戸惑っている。


 矢は巨木に刺さったまま、動く気配はなかった。


 「チッ」


 男は舌打ちした。


 「ちょっと、油断したわ」


 右足を上げて、掴んでいる護衛隊長の手を振り払う。


 そのまま護衛隊長に蹴りを入れようと、くるっと身体を回転して、護衛隊長のほうを向いた。


 「おい!!」

 「まだいるんだぞ!!」


 長剣を持っている護衛たちが跳躍した。


 「んっ!」


 護衛たちの長剣が男に振り下ろされる。


 ――スァァ!


 「……あっ!」

 「ミト、いま……!」

 「うん!僕も分かった……!」


 先のボウガンの軌道を見たからだろうか。


 ――スァァ!


 斬撃時の、長剣の刃の残像。


 よく見ると、先のボウガンの軌道のように、男に当たるすんでのところで、ちょっとだけ残像が曲がっている。


 長剣の斬撃も、護衛たちの意思に反して、男を避けるような軌道に変わっていた。


 「また、攻撃がずれて……!」


 ――ゴッッ!!


 「ぐぇ……!」


 男の打撃で護衛が倒れる。


 「くそぉ!!」


 ――ビュビュンッ!!


 ボウガン隊が再度、矢を放つ。


 ――スッ……。


 その矢はやはり、男の身体に当たるすんでのところで軌道が変わってしまう。


 「無駄やって」


 ボウガン隊に男が飛びかかった。


 ……まるで、あの人の周りだけ、空間が歪んでいるようだ。


 「……もしかして!」


 マナトは言った。


 「あの人、空間を歪ませ、ねじ曲げる能力を持っているんじゃ……!」

 「なに言ってんだマナト!」


 ケントが言った。


 「そんなのあるわけないだろ!」

 「ですよね!……えっ?」


 ……あっ、え?あるわけない、の?


 「あはは!」


 リートが笑った。


 「マナトくん、なかなか、想像力が豊かっすねえ!」

 「どちらにしろ、あまりにも、人間離れし過ぎてるぞ、マナトその解釈は!」


 ……いや僕からすれば水流がシュルシュル~の時点で十分人間離れしてるしそんなことあるわけないんですけど!?前の世界の常識だと!ここ、そういう世界でしょ!


 心の中でマナトは叫んだ。


 ここまでヤスリブで過ごしていても、ここで生きる人々にとって、なにが現実的にあり得て、なにが非現実的なのか、イマイチ分からなくなるときが、やはり、マナトにはあった。


 「……てゆうか、これって……」


 気がつけば、護衛たちが、半数以上倒れている。


 「ケントさん、これ、護衛たちが勝てなかったら、どうするんですか?」

 「えっ?」


 マナトに聞かれ、ケントは腕を組んで、ん~っと考えている。


 やがて、言った。


 「俺たちも、戦うことに、なるのかな?」

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