310 ムスタファ公爵の公宮内、ルナの部屋にて

 「ルナさま、お口を開けてくださいませ」


 ムスタファ公爵の公宮内、ルナの部屋には医者がやって来ていて、ルナの容態を診ていた。


 「ルナさま、体調のほうはいかがですか?」


 医者はルナに問いかけた。


 「そうですね。かなり、よくなったと思います」

 ルナは答えた。


 「ものは、食べれてますか?」

 「はい」

 「そうですか。よかった。日ごとに、回復傾向にあるようですね」


 医者は笑顔になった。


 「先生、ありがとうございます」

 「なんの。……しかし、辛かったでしょう。しばらくの間、マナ焼けによる体内の炎症で、息をするのも辛かったハズです」

 「でも、もう、大丈夫です、先生」

 ルナも、笑顔で言った。


 「ですが、身体はまだ、健康とはいえないほどに細い。くれぐれも、ご無理はなさらずに」

 「分かりました」

 「再び、薬を処方しておきます」

 「ありがとうございます」


 医者はマナ焼けに効く薬をテーブルに置き、それでは、と部屋を出ていった。


 すると、医者と入れ違いに、召し使いが入ってきて、言った。


 「ルナ様、来客がございます」

 「あっ!ウテナでしょ?」

 「はい、あと、見慣れない男の方が、もう一人、一緒に来てらっしゃるんですが……」

 「もう一人……」


 召し使いの言葉を聞いたルナは、部屋の隅にある、化粧台に座った。


 正面にある鏡を見ながら、化粧を行う。


 その男の人に、気に入られたいとか、そういうことではない。


 自分が病弱になっている状態になっていることを悟られない、そのための化粧だった。


 化粧を済ませ、身体のラインが分からないような、白装束系の服をまとったルナは、召し使いに、自分の部屋に通すように言った。


 「ルナ~」


 扉が少し開き、ウテナが、チラッと顔だけ出した。


 「ウテナ、お帰りなさい」

 「ただいま」

 「すぐ、分かったよ。大通りの歓声が、ここまで届いてくるんだもの」

 「あぁ、なるほどね」


 するとウテナが、申し訳なさそうに言った。


 「ほんと、ごめんね。どうしてもって、ついて来ちゃって」


 すると、ルナでもウテナでも公宮の住人でもない、男の声がした。


 「おい、ウテナ!なんで、ごめん、なんだよ!」

 「い、いや、だって、一緒に来るって、言ってなかったんですもの……」


 ウテナと一緒に、オルハンも部屋に入ってきた。


 「あっ!オルハン先輩だったんですね!」


 ルナは、キャラバンサロンの先輩であるオルハンの、久しぶりの再開に喜んだ。


 「お、おう、ルナ、久しぶ……!」


 オルハンは、化粧をして、正装したルナを見て、一瞬、言葉を失った。


 「あ……」


 動揺しているようだ。


 「あ、あ、アレなんだよな!公務!公務終わりなんだよな!」

 「あ、そ、そうです!そうなんです!」


 ルナはオルハンに合わせるかたちで言った。

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