311 ルナとオルハン

 「オルハン先輩ったら、ホント、勝手についてくるんだもの……」


 ウテナはオルハンを見ながら、やれやれと言わんばかりにため息をついた。


 「いや、べ、別にいいだろ!同じキャラバンサロンなんだから!」

 「……」


 ……ただただ、ルナに会いたかっただけでしょ。


 フィオナから聞いた話によると、オルハンはルナのことが好きらしいのだ。


 「ぜんぜん、大丈夫よ、ウテナ。むしろ、私のほうから会いにいかないとって、思ってたし」


 ルナは言うと、オルハンに向かって頭を下げた。


 「ホント、どこかで、直接会って、謝ろうと思っていたところなんです。オルハン先輩、交易に参加できなくて、迷惑かけて、ごめんなさい」

 「か、構わねえよ!ぜんぜん!」


 オルハンは、顔を少し赤くしながら、ルナに返事した。


 「お、俺は、最強だからな!」

 「えっ?……ウフフ」


 ルナは微笑んだ。


 「相変わらずですね、先輩、……でも、ありがとうございます」

 「……」


 オルハンの顔はさらに紅潮していた。


 完全に、落ち着きは消え去って、心の乱れが顔にまで浮かび上がっているような


 「ルナ、お前は、俺が守る!」


 ……えっ、いや、いきなり?


 話の脈絡も、なにもなく、なんというか、思いが、前に前に出すぎてしまって、ただ自分の中にある気持ちだけが言葉になっている……そう、ウテナは思った。


 「……」


 と、オルハンの言葉を聞いたルナの、それまでの笑顔が消えた。少しうつむいた。


 「……嫌です」

 「えっ……」


 ルナの返事に、少し、場が凍りついた。


 日頃、仲間内に対して、あまり拒否的なことを言い放つことのないルナには、似合わない言葉だった。


 ウテナは驚き、オルハンに至っては、表情が完全に固まってしまっている。


 「る、ルナ……?」

 「私は……」


 ルナは顔を上げ、まっすぐ、オルハンを見て、穏やかな中にも強さのある口調で言った。


 「私は、守られたくない……一緒に、戦いたいんです……!」

 「!」

 「守られるだけじゃなく、守れる自分になりたいんです……!」


 ……ルナ。


 今の言葉……オルハンだけでなく、自分にも言っているのだと、そう、ウテナは思った。


 「……」


 と、ルナはしきりに、ウテナに目配せをしている。


 ……あっ、そういうことね。


 「は~い、それじゃ、オルハン先輩はこれで~!」

 「ぬぁ!?」


 ウテナはオルハンの背中を押した。そのまま、部屋の外へと押し出す。


 「おい、なにすんだよ!ウテナ!」

 「はいはい、これからは、女だけのトークするので!外で待っててくださいね~」


 ――パタン。


 ウテナは扉を閉め、ルナを見て、てへっと舌を出した。


 「ウフフフ……」


 ルナも、可笑しくなって、小さく笑った。


 「化粧、変じゃなかった?」

 ルナが言った。


 「ううん、大丈夫」

 「よかった」

 「というか、オルハン先輩、ホントに分かりやす過ぎ」

 「……」


 ウテナが言うと、ルナは少し、困ったように笑った。

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