375 ムハドの問いかけ
「アーリの階級、ですか……」
「そうだ。君はなかなか、優秀なキャラバンのようだから……」
「……」
すると、すぐ後ろにピタリとついている長い金髪を後ろで束ねた女と、赤黒いねじれた髪の男の2人が、前に出てきた。
2人とも、どこか、圧を感じさせる。
「……どうしたんだね?君たち」
しかし、そんなものは、アブドには効かない。
「私はいま、彼と話をしているんだがね」
少し困ったような笑顔を見せながら、アブドは2人に言った。
「あぁ、ちょいちょい、セラ、リート」
ムハドが、2人に言う。
「公爵の言うとおり、話をしてるだけだ。変に深読みするな」
「……」
2人が、ムハドの後ろに下がった。
「すみません、公爵」
「何を言う。私には、後ろの2人が、すばらしい護衛に見える」
「ありがとうございます」
「対抗戦には、出場しているのだろう?」
「そうですね」
「いま、あれだけ場外乱闘を繰り広げた、水を操る彼がいる君のサロンだ。そこにいる2人、また、他の者達も、おそらく実力的には、十分だろう」
今回行われているサロン対抗戦は、メロの国のキャラバンにおける、今回制定された階級の上位……アーリへの昇級がかかった戦いである。
「君が望めば、アーリの件は、君のサロンに関しては特別に、個別に検討することも可能であることを、言っておこう」
「……」
ムハドが無言で、アブドを見ている。
アブドのいまの発言に対して、喜びの表情といったものは、ムハドには、ない。
そして、その黒茶色の瞳は、アブドの目を見ているようでもあり、また、時折、目線が下がったり上がったり……どこか、別の場所を見ているようでもあった。
……なにか、見えているのか。
「……アーリの階級には、」
少し経って、ムハドが口を開いた。
「どんな、サロンというか、キャラバン達が、いるのですか?」
「どんな、キャラバン達……と?」
「そうですね、例えば……」
ムハドの目が、キッと細くなった。瞳から、研ぎ澄まされた
「キーフォキャラバン、とか」
「!」
キーフォキャラバン……死の商人。
「いえ、すみません、冗談が過ぎました」
ムハドは即座に自分の言ったことを否定した。
「対抗戦を勝ち上がれば、どのみち分かると思って、ふざけたことを言ってしまいました。申し訳ございません」
ムハドはペコリと謝ると、続けた。
「実は、数日前、砂漠で、武器狩りの盗賊に遭遇しまして」
「……ほう」
「私の経験上、武器狩りの盗賊は、ムシュマなどの争いが比較的頻繁な地方に多く、クルール地方ではこれまで、見かけたことなど、なかったのですが」
「……」
「それで、彼らの素性がどうやら、メロの国に属する、小国の出身だと言っていまして。ほら、よく言うじゃないですか。武器狩りの盗賊のいるところには、背後にキーフォキャラバンがいる、と」
「……」
「……まあ、なにかしらの原因で、国にいられなくなって、やむにやまれず盗賊に身を落とす者達は、そう少なくない話ですから。あぁ、すみません、言葉が過ぎました。それでは」
ムハドが再び合掌し、無言になったアブドへと一礼すると、連れの2人とともに、自分達の席へと歩き始めた。
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